洋画な日常

洋画まみれな人がネタバレを避けて紹介していくブログ

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『ディープ・インパクト』感想・紹介・レビュー【最期の時】

ディープ・インパクト

ディープ・インパクト (字幕版)

 

1998年に公開されたアメリカ合衆国のパニック(ヒューマンドラマ)映画。
監督をミミ・レダー、脚本をブルース・ジョエル・ルービン、マイケル・トルキンが務めた。

出演
  • ロバート・デュヴァル
  • ティア・レオーニ
  • イライジャ・ウッド
  • ヴァネッサ・レッドグレーヴ
  • マクシミリアン・シェル
  • モーガン・フリーマン
  • リーリー・ソビエスキー

 

序盤のあらすじ

天文部に所属する高校生、リオ・ビーダーマンは天体観測中に彗星を発見。

その情報を天文台のウルフ博士に伝える。

計算の結果、彗星が地球に衝突するとの結果を弾き出し、博士は情報を持って移動するが交通事故で亡くなってしまう。

1年後、テレビ局に勤めキャスターを目指しているジェニーは、元財務局長官の突然の辞職の理由が「エリー」という女性との不倫スキャンダルだと読んで取材をしていた。

「エリー」に関して嗅ぎつけられたと思った政府はジェニーを連行、アメリカ大統領トム・ベックのもとに通すと、大統領は2日後に行う緊急会見に好待遇で出席させる事を条件に、それまでスクープを伏せて欲しいと要求する。

2日後その緊急会見にて「ウルフ=ビーダーマン彗星」が1年後に地球に衝突する事と、衝突回避のための「メサイア計画」が発表された。

引用:Wikipedia

 

今作は、こういったパニック映画では一般的に使われている派手なCG演出で人々や動物などが逃げ惑う混沌と化した様子を描くことが多い中、世界的な人類存亡の危機に陥ってしまった状況下における登場人物たちの心理描写や人間関係、その危機に対する政府機関の危機管理対策を主軸にして描くという、典型的なパニック映画とは一線を画す内容となっている。

 

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今作の評価で見るのが、この『ディープ・インパクト』の2か月後に公開された『アルマゲドン』との比較で「地味で見応えに欠ける」「迫力がない」「ディープコンパクト」というような批判的な意見。
その意見も分からなくもないし、そもそもの原因はアメリカの映画制作システムである「1つの映画作品に多いと30人ほどの脚本家が関わる」ということにあるので、似た作品が出来てしまう事によって娯楽やより強い刺激を求める人にとっては、物足りなさを感じてしまうのだろう。

 

しかしだからといって、今作が1つの作品として劣っているかと言われたらそんなことは一切ないと個人的には考えている。
いわゆる派手な演出の多い娯楽大作と同じような観方をしてしまえば、地味に見えるかもしれないが、「隕石」という人類どころか生物にとっての危機的状況下においての人間ドラマはかなり魅力的。

 

シェルターに入れば助かる可能性があり、入る権利があるのにも関わらずどうにかしてシェルターに入る権利のない幼馴染を救うために奔走する少年。
同じく権利があるが、父親と命のその最期の瞬間を共に迎えようとするキャスター。
もう助かるという事を諦め、死を受け入れ、身の回りの整理をし始める女性。

 

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様々な立場や状況にある人々が命が助からないことを知った上での様々な行動や心理を丁寧に丁寧に描いている。
それでいて心理描写などを丁寧に描くと退屈に感じてしまう事の多い人間ドラマが多い中、リアリティのある描写に説明口調になることのない展開方法によってあっという間に2時間1分が過ぎ去っていく。

 

人間だれしも生きていれば逃れることの出来ない「死」。
しかし、この作品の様にある意味では確定的なタイムリミットを突き付けられた時に自分がどういった行動を取るのだろうか、取るべき行動は何なのだろうかと観るたびに深く考えさせられる。
恐らく、実際にこの状況に置かれた多くの人は混乱してまともに思考することなど不可能に近いだろう。

 

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しかし、理由はどうあれ「死」「終わり」というものは確実に訪れる。
それが分かった時に自分がどう考えるのか、どう行動するのかということを今作を通じて1度考えてみてはいかがだろうか。

 

 

小ネタ

今作は元々1970年代の中ごろに、リチャード・ザナックとデビット・ブラウンがパラマウント映画からリメイク権を取得し、制作準備に入った。
しかし作業が進まずに計画休止状態となり、スピルバーグが計画していた他作品なども巻き込み1993年にやっと脚本の執筆がなされた。
結果として約20年にもわたって紆余曲折を経た上で制作が開始された。

 

 

 

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『コレクター』感想・紹介・レビュー【サスペンス風バディムービー】

コレクター

コレクター (字幕版)

 

1997年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンス映画。
監督をゲイリー・フレダー、脚本をデヴィッド・クラスが務めた。
原題: Kiss the Girls

出演
  • モーガン・フリーマン
  • アシュレイ・ジャッド
  • ケイリー・エルウィス
  • トニー・ゴールドウィン
  • ジェイ・O・サンダース
  • ビル・ナン
  • ブライアン・コックス

 

序盤のあらすじ

犯罪心理学の博士号を持つ警官のクロスは姪のナオミが誘拐事件に巻き込まれた事を知り、現地へ向かう。その誘拐事件では既に8人の女性が誘拐され2人が殺されていた。

クロスは地元警察のラスキン刑事から事件の詳細を聞かされる。

そんな中、また被害者の遺体が発見された。犯人の殺害手口は残忍で証拠は何一つ残さない。

クロスは犯人の犯罪傾向から女性を収集する異常なコレクターだと分析する。

そして遺体が木に裸で縛り付けられていること、また遺体発見と誘拐の順序が違うことから「何かルールがあり、それを破ると罰として森を歩かせているのではないか」と推理する。

引用:Wikipedia

 

今作は、ジェイムズ・パタースンが1997年に発表した『Kiss the Girls』を原作とし、アメリカのとある場所で起きていた連続猟奇殺人事件を捜査する心理学者の顔も持つアレックス・クロス刑事と、殺人犯の9番目の犠牲者になるはずだったが、犯人のアジトから脱出に成功したケイトをメインに定番サスペンスとして描かれた作品。

 

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制作されたのが20年以上前ということが直接的に関係しているわけではないが、定番テーマであり言ってしまえば割と王道的に進むのもあって、本格的なサスペンスやミステリーとしては様々な部分で物足りないかもしれない。

 

カサノバを自称する犯人は獲物である女性を拉致監禁し、全員殺すという訳でなく邦題の”コレクター”通りに美女をコレクションするという点では犯人の精神的異常性を表面的に感じることは出来るのだが、その犯人の深い心理部分や監禁された被害女性などの心理描写などもほぼ掘り下げてはいない。

 

その辺りがもう少しきちんと練られた上で各登場人物、特に犯人の心理描写などを描くことが出来ていればサスペンス、スリラーのカテゴリーで、もっと魅力的な作品になっていたのではないだろうか。
こういった軽めのタッチだからこそ観易く感じる人も居るのだとは思うが、ある程度同カテゴリーを好んで観てきた人にはそこまで満足感は得られない可能性が高い。

 

あくまで今作は犯罪心理学のプロでもあるモーガン・フリーマン演じるアレックスと、被害女性の中で唯一犯人から逃れることに成功したアシュレイ・ジャッド演じるケイトが、今もなおコレクションされている女性たちを救出するために奮闘するサスペンス風バディムービーと言ったほうがしっくりくる。

 

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正直言ってしまえば、いくら唯一の目撃者であるが故にその目撃証言は重要とはいえ被害者であるケイトが、そのまま捜査協力するというのは流石にサスペンス物としてはリアリティに欠ける。
そしてこれが一応カサノバの正体の伏線になっているのかもしれないが、カサノバがターゲットに接触する際に使用する手段がアレックスの尋問手法と同様というだけでほとんどの人が具体的に誰とまでは行かなくとも、ある程度想定出来てしまってその正体に対する意外性を感じる事が出来ない。(あれが伏線だというのであれば大分雑)

 

もう少し、現代で言えばプロファイルを駆使しながらカサノバと高度な心理戦を繰り広げながら、その要所要所に伏線ともとれるような要素を散りばめたりは出来なかったのかなと思ってしまった。
折角モーガン・フリーマンを起用しているのにも関わらず、彼の存在感や圧倒的な演技力が発揮されているとは言いにくい。


冒頭でサスペンススリラーとしてカテゴライズしてはいるが、基本的にはサスペンス風バディアクションということを頭に入れて観ると良いだろう。
気軽に観ることの出来る作品として考えればそれなりに楽しむことはできるが、個人的にはちょっと物足りなさを感じてしまう作品だった。

 

 

 

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『インターステラー』感想・紹介・レビュー【人、愛、宇宙】

インターステラー

インターステラー(字幕版)

 

2014年に公開されたアメリカ合衆国のSF映画。
監督・脚本をクリストファー・ノーラン、共同脚本をジョナサン・ノーランが務めた。

出演
  • マシュー・マコノヒー
  • アン・ハサウェイ
  • デヴィッド・ジャーシー
  • ジェシカ・チャステイン
  • マイケル・ケイン
  • マット・デイモン

 

序盤のあらすじ

近未来。

巨大砂嵐が日常的に発生する異常気象により地球規模で植物・農作物の大量枯死が発生し、人類は滅亡の危機に晒されていた。

元宇宙飛行士クーパーは、義父と15歳の息子トム、10歳の娘マーフィー(マーフ)とともにトウモロコシ農場を営んでいる。

マーフは自分の部屋の本棚から本が勝手に落ちる現象を幽霊のせいだと信じていたが、ある日クーパーはそれが何者かによる重力波を使った二進数のメッセージではないかと気が付く。

クーパーとマーフはメッセージを解読し、それが指し示している秘密施設にたどり着くが、最高機密に触れたとして身柄を拘束される。

そこでクーパーはかつての仕事仲間のブランド教授と再会し、大昔に無くなったはずのNASAが秘密裏に復活し活動を続けていることを知らされる。

NASAは土星近傍のワームホールを通り抜けて、別の銀河に人類の新天地を求めるプロジェクト――ラザロ計画を遂行していたのだった。

引用:Wikipedia

 

今作は、3次元における不可逆性の時間と重力場、特異点、ニュートン力学、特殊相対性理論などその他さまざまな科学的考証を用いた演出をし、地球を離れ新たな居住可能惑星の探索を行うためにワームホールを通過し、別の銀河系へとインターステラー(有人惑星間航行)をする宇宙飛行士のチームを主軸に、未知の世界への無謀ともとれる挑戦とその状況下での人間の倫理、勇気、信頼、愛などヒューマンドラマもふんだんに盛り込んだSF作品としては異色とも言える作品となっている。

 

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「SF映画」というカテゴリーではあるものの、『スターウォーズ』シリーズを始めとする現代社会における問題の一部を切り取ってあくまでもエンターテインメント作品として作られるものと、人類や地球そのものが抱える普遍的な問題をシンプルに定義し訴えながら視聴者にそのことについて考えさせる物が存在する。
今作はその中でカテゴライズするのであれば、確実に後者と言えるだろう。

 

それでいて今作は”愛”というものを様々な事象や事柄を超越し得る存在として前面に押し出し、ヒューマンドラマとしてのシナリオが新鮮に感じられる人も多いのではないだろうか。
逆に言ってしまえば、至って純粋なエンターテインメントとしてのSF映画を求めて観てしまうと、圧倒的な孤独感に辛さの描写に作品を楽しむというよりも心の底から「人」が恋しくなってしまうかもしれない。

 

そして何と言ってもクリストファー・ノーラン作品としての映像の魅力は相変わらずだ。
可視化するのが難しいであろうモノをそれらしく映像として落とし込む才能は流石としか言えない。
それが故に宇宙、物理学などのことが詳しくなかったとしても、きちんと丁寧にアプローチをしながらストーリー展開がなされていくためある程度は問題ない。
勿論、扱っているテーマがテーマなだけに全く分からない人にとっては整合性が取れない部分や、冗長に感じてしまうシーンがあるのでその辺りは注意して欲しい。

 

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しかしこれだけ映像から受ける刺激の多い作品も珍しい。
時、空間、様々な概念などの観点を改めて考えさせられることになると思う。
映画として成立させるためにある程度都合のいい部分は存在するが、これだけチャレンジング尚且つメッセージ性のある作品になっているので是非お勧めしたい。

 

そもそも、映画で再現されていることが全て正しい訳でもない(証明しようがない物もある)ので、そういったレビューで評価を落としている人は「フィクション」ということを忘れないで貰いたいところではある。

 

 

小ネタ

秘密主義者で知られるノーランは今作の撮影の際にも、厳重な警備を敷いた上で臨んだ。
撮影は『Flora’s Letter』というタイトルで行われていて、フローラとはノーランとプロデューサーのエマ・トーマスとの間の子供のうちの1人から。
今作の科学コンサルタントには相対性理論を可能な限り正確に描写するために、理論物理学者であるキップ・ソーンが起用された。

 

 

 

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『ハイ・クライムズ』感想・紹介・レビュー【異色の法廷ドラマ】

ハイ・クライムズ

High Crimes (字幕版)

 

2002年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンススリラー映画。
監督をカール・フランクリン、脚本をユーリー、ゼルツァー、グレイス・ケイリー・ビックレイが務めた。
原題:High Crimes

出演
  • アシュレイ・ジャッド
  • モーガン・フリーマン
  • ジェームズ・カヴィーゼル
  • アダム・スコット
  • アマンダ・ピート
  • ブルース・デイヴィソン
  • トム・バウアー

 

序盤のあらすじ

2002年。

女性弁護士のクレア・キュービックは、建設会社を経営する夫トムと共に幸せな日々を送っていた。

だが、そんなある日、二人の家に強盗が侵入。

二人とも無事だったが、警察が事件を捜査していく内に、トムの本名がロナルド・チャップマンであること、過去に海兵隊の特殊工作部隊に所属していたことが判明する。

しかも、彼には1988年にエル・サルバドルで一般市民9人を殺害した容疑がかけられており、結果FBIに逮捕されてしまうのだった。

自身の無罪を訴えるトムと、彼を信じて軍事法廷に立つことを決意するクレア。

そして軍事裁判に関する知識が豊富な、老弁護士チャーリー・グライムス。

チャーリーの手助けを借りながら、軍の隠された実態を暴いていくクレアだったが、事態は予想だにしない方向に向かっていく。

引用:Wikipedia

 

今作は、ジョセフ・ファインダーの小説『バーニング・ツリー(原題:High Crimes)』を原作とし、1997年の映画『コレクター』のモーガン・フリーマンとアシュレイ・ジャッドが再びタッグを組み、過去を捨てたはずの男が12年前のエルサルバドル住民の殺害容疑をかけられ、弁護士でその男の妻が無実を信じ軍法会議で海兵隊法務部出身の弁護士と共に戦うを描いた作品。

 

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軍法会議をてーまにした作品として有名なのはトム・クルーズなどが出演した1992年の作品『A Few Good Men』だろう。
あちらが軍法会議ものとしては教科書的な存在になっている一方、今作はどちらかというと軍法会議を題材にはしているもののあくまで1つの要素に過ぎないと言ったところだろうか。




『A Few Good Men』の記事はこちら




前半から中盤にかけては、刑事民事の異なる軍事裁判のシステムや国家保安の上で壁となる機密や軍法などを、脚本も含め相当練りに練って丁寧に作られた軍法会議ドラマにはなっている。
中盤以降は一転、法廷中心のストーリーからサスペンス要素、スリラー要素の強いドラマになっていく。
これが評価を分ける点になってしまっているのだとは思うが、個人的には軍法会議モノとして進めたとしても『A Few Good Men』と比較するとあちらに軍配が上がってしまう気がするので、こういう展開も無くはないかなと感じた。

 

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ラストの展開なども含めると結構後味の悪い作品になってしまうので、そういうモヤモヤを遺した状態で終わる作品が好みじゃない人には向かないかもしれない。
純粋な法廷モノとして作られていたらどうなっていたんだろうという気持ちもあるが、異色の法廷ドラマ+サスペンスとして考えれば、これはこれでアリと感じさせてくれるくらいにはきちんと作られた作品だ。


もし、今作を観て腑に落ちない点がある場合は原作小説を観ると色々分かるかもしれない。
理想は映画の中で分かるのが1番良いと言えば良いんだけね。

 

 

 

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『EVA<エヴァ>』感想・紹介・レビュー【創造者と創造物】

EVA<エヴァ>

EVA<エヴァ>(字幕版)

 

2011年に公開されたスペインのSF映画。
監督をキケ・マイーリュ、脚本をセルジ・ベルベル、クリスティーナ・クレメンテ、マルティ・ロカ、アインツァ・セラが務めた。

出演
  • ダニエル・ブリュール
  • マルタ・エトゥラ
  • アルベルト・アンマン
  • クラウディア・ベガ
  • アンヌ・カノヴァス
  • ルイス・オマール

 

序盤のあらすじ

2041年、天才ロボット科学者であるアレックスは、故郷である雪深いサンタ・イレーネに10年ぶりに戻って来る。

10年前に中断したままになっていた子供型ロボットの研究開発を再開するために、同地にある大学のロボット科学者フリアに呼び戻されたからである。

しかし、故郷にはかつての恋人で今は兄ダヴィッドの妻となったラナがおり、ラナとアレックスの間には今でもわだかまりが残っていた。

アレックスは大学での仕事を嫌い、実家で研究をすることになる。

フリアはロボットのモデルとなる少年の候補を何人か映像で見せるが、アレックスはいずれの少年も気に入らない。

引用:Wikipedia

 

今作は、2041年という近い未来を舞台として、ロボットAI工学の専門家の主人公アレックスはロボット開発を途中で投げ出して失踪し、10年後大学に呼び戻され大学の仲間たちによってほぼ完成しようとしていたロボットの知能を姪である少女エヴァをモデルにした子供型のロボットを開発しようとした結果、知ることになってしまう過去の秘密を描いたSF作品。

 

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ストーリー的にはそこまで秀でた物を感じる訳でも、斬新さがあるわけでもないし、ハリウッド大作のようなどこまでが現実でどこまでがCGというようなロボットが出てくるわけでもない。
今作はそういったバリバリのSF大作というわけではなく、舞台となっている豊かな自然に囲まれたスペインの学園都市を始めとする映像美と、タイトルにもなっている少女エヴァの12歳特有の愛らしさ、12歳とは思えない知的な一面を観る映画と言えるかもしれない。

 

あくまでも個人的にだが、エヴァは『LEON』のマチルダを彷彿とさせる。
作品の雰囲気やキャラ設定などはまるで違うのだが、年齢にそぐわない一面を見せたかと思いきや、年齢通りの無邪気さを持ち合わせている部分。
そして、目線やちょっとした仕草だけでしっかりとその場その時の感情を視聴者に訴えかけてくるような演技は両者とも素晴らしい。

 

 

 

『LEON』の記事はこちら




偶然にも『LEON』が映画デビューとなったナタリー・ポートマンと同じく、今作が映画デビューのクラウディア・ベガ。
ナタリー・ポートマンは上記の『LEON』の記事内でも触れているので省くが、クラウディア・ベガもとてもじゃないが、初出演の映画とは思えない存在感と演技力。
そしてこれも演出なのかは分からないが、周囲の雪景色やウールの赤いコートがレフ版のような効果を持ち、女性の顔を明るく引き立たせているのもあってより一層魅力的なキャラクターとして仕上がっている。

 

キャラクターの魅力は勿論だが、映像から感じ取ることの出来るクレバーな雰囲気も自分は好きだった。
寒さをこれでもかと痛感させられる銀世界、登場人物の移動手段として出てくる古い車たち、ヨーロッパ映画特有の気怠い空気感などが物凄く心地よい。

 

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人によっては地味目、暗いと捉えられてしまうとは思うのだが、そういった部分も今作の良さだろう。
序盤はそれなりに楽しげな雰囲気を醸し出している状態で進んだかと思いきや、中盤からエンディングに向けてやや暗め、悲劇的な方向へと向かっていく展開は向き不向きあるのは確かかもしれない。

 

しかし、今作は創造物の在り方は創造者の主観で決められるべきなのか、というような強くも儚いメッセージがしっかりと込められていて、近い未来実際に起こるかもしれないと思わせてくれる問題の根っこをさり気なく掘り起こし提示した貴重な作品としてオススメしたい。

 

 

 

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『ミケランジェロの暗号』感想・紹介・レビュー【虚々実々な攻防戦】

ミケランジェロの暗号

ミケランジェロの暗号 (字幕版)

 

2011年に公開されたオーストリア・ルクセンブルクの戦争サスペンスコメディ映画。
監督・脚本の脚色をヴォルフガング・ムルンベルガー、脚本をポール・ヘンゲが務めた。

出演
  • モーリッツ・ブライプトロイ
  • ゲオルク・フリードリヒ
  • ウーズラ・シュトラウス
  • マルト・ケラー
  • ウド・ザメル
  • ウーヴェ・ボーム
  • ライナー・ボック

 

序盤のあらすじ

ユダヤ人画商一族、カウフマン家が密かに所有するミケランジェロの絵。

それはムッソリーニも欲するほどの国宝級の代物だった。

ある日、一家の息子ヴィクトルは親友ルディに絵の在りかを教えてしまう。

ナチスに傾倒していたルディは、軍で昇進するためにそれを密告。

一家は絵を奪われ収容所へと送られる。

一方ナチスは、絵の取引の材料にイタリアと優位な条約を結ぼうとしていたが、奪った絵が贋作であることが発覚する。

本物の絵をどこかへ隠した一家の父は、すでに収容所で死亡していた・・・。

引用:(c)2010 AICHHOLZER FILM & SAMSA FILM ALL RIGHTS RESERVED.

 

今作は、2007年に公開され第80回アカデミー賞で外国語映画賞を受賞した『ヒトラーの贋札』の製作陣が、ナチスから迫害の只中にあったユダヤ人画商ヴィクトル・カウフマンが過去に親友であった将校とバチカンから盗まれた「失われたミケランジェロ」を巡り、熾烈な争奪戦を繰り広げる様を描いた作品。

 

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ストーリー自体は全体的に淡白な印象を受けるのだが、無駄に複雑な展開に伏線、人間関係などはほとんど無いのもあり、終始頭を使うことなく脱力したまま気軽に観ることが出来る作品に仕上がっている。
そして、ナチスなどを題材にした映画にありがちな凄惨な拷問シーンなども基本的には無い(脅迫シーンや必要最低限の暴力シーンはある)し、洋画にありがちな無駄なお色気シーンもないのでそういった意味でも観易い。

 

冒頭でカテゴリーを「戦争サスペンスコメディ」としたが、パッと見は共存出来ないであろうイメージだと思う。
しかし、今作を観ればそれを理解出来るのではないだろうか。
若干出来過ぎ感は否めないとはいえ、シンプルな展開にも関わらずしっかりと見応えがあって尚且つ、胃もたれしない程度にコメディテイストが効いている。
中々考えて作られているんだろうなと感心した。

 

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当時実際に言われていたのかは定かではないが、ユダヤ人を見分ける方法の1つに「割礼していればユダヤ人」というものがある。
今作の中でもそのようなシーンが用意されていて、下着を脱がされたユダヤ人捕虜(実際はナチス)が「それは包茎手術の痕ですー!」と叫ぶのだが、記事を書いている今でも思い出すと笑えて来る。

 

ただ、ポスターやタイトルの印象から重厚な歴史映画を期待してみてしまうと、がっかりしてしまうのでオススメしない。
ユダヤ人強制収容などの重い話は、事実として単純に伝えるだけでストーリーの展開とは直接関係なく突っ走っていく。
そもそも、今作は政治サスペンスを銘打って作られているわけではないので、そういう観方自体が間違っているような気はするが、レビューで上記のようなパターンで評価を下げている人も居るので念のため。


安心して欲しいのは、作品としてしっかりと作られていて素晴らしい出来になっている。
ストーリーの展開と共に二転三転する立場の違いや、悲惨だった狂気の時代に1つの絵を巡った虚々実々が入り乱れた攻防劇。
他の作品ではあまり感じ得ないハラハラドキドキ感を感じながら観る事が出来るだろう。

 

 

 

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『1917 命をかけた伝令』感想・紹介・レビュー【忘れられた戦争】

1917 命をかけた伝令

1917 命をかけた伝令 (字幕版)

 

2019年に公開されたイギリス・アメリカ合衆国の戦争映画。
監督・脚本をサム・メンデス、共同脚本をクリスティ・ウィルソン=ケアンズが務めた。

出演
  • ジョージ・マッケイ
  • ディーン=チャールズ・チャップマン
  • マーク・ストロング
  • アンドリュー・スコット
  • リチャード・マッデン
  • クレア・デュバーク
  • コリン・ファース
  • ベネディクト・カンバーバッチ

 

序盤のあらすじ

1917年4月6日、ヨーロッパは第一次世界大戦の真っ只中にあった。

その頃、西部戦線にいたドイツ軍は後退していた。

しかし、その後退はアルベリッヒ作戦に基づく戦略的なものであり、連合国軍をヒンデンブルク線(英語版)にまで誘引しようとしたのであった。

イギリス陸軍はその事実を航空偵察によって把握した。

エリンモア将軍は2人の兵士、トムとウィルを呼び出し、このままでは明朝に突撃する予定のデヴォンシャー連隊(英語版)第2大隊が壊滅的な被害を受けてしまうが、彼らに情報を伝えるための電話線は切れてしまったため、現地へ行って連隊に作戦中止の情報を伝えることを命じられた。

第2大隊には1,600名もの将兵が所属しており、その中にはトムの兄・ジョセフもいた。

引用:Wikipedia

 

今作は、第一次世界大戦に投入された2人の伍長代理であるウィルとトムの、とある1日を全編ワンカットに見えるような密着取材のような手法で撮影された作品。
あくまで”見えるように”であって、実際には動きを綿密に計算した複数回の長回しによって撮影された映像をワンカットに見えるように編集で繋げたもの。

 

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今作の主人公2人は前述した通り「伍長代理」で、新兵ではない。
こういった作品だと新兵、もしくはその戦争の英雄的な存在に着目して作られることが多いのだが、それなりに複数の戦場を経験したのであろう上等兵であることに意味が有ると感じた。
新兵が感じる新鮮さから来る戦争の怖さではなく、理解しているからこその怖さ、理解しているからこその感情というのが映像から発せられる緊張感をより一層、重い物にしている。

 

先の事すら考える余裕などなく、”今” を必死に生き抜くことに全神経を集中させなければならない状況が続くさまは観ているこっちまで息が詰まるようだった。
ここで生きてくるのが「ワンカットに見える映像」で、主人公2人に常に寄り添っていることで視聴者は常に主人公と同じタイミングで同じ体験をし、同じ感情を抱けるということに一役買っている。

 

ただ、人によっては「ワンカットに見える」が故にどうしても映像自体が同じような場面の繰り返しに見えてしまう可能性も否めない。
この当時の戦争という過酷な現実世界で生きる事の本質を問いかけているような作風なのもあって、変に演出されたシーンや会話があるわけではないので好き嫌いがはっきり分かれるかもしれない。

 

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個人的にはそう感じさせないためかどうかは分からないが、戦場の廃墟を映し出す光とそれによって浮かび上がる影や、戦火によって赤く染まる市街地の情景などは物悲しさは勿論だが、一種の美しさを感じるほどの映像美だと感じた。
しっかりと映像の中にも製作チームの工夫が見て取れる作りだと思うので、いわゆる「分かりやすい派手さ」が欲しい人以外は満足できるのではないだろうか。

 

野心的な取り組みなのもあって、所々気になる部分がないわけではないがこういった挑戦をしつつ「映画」という1つの作品を成立させることの出来る監督は多くないので貴重だろう。
中盤以降に主人公が直面する問題の場面では若干冗長になってしまっていたりするものの、作品を通して観ればかなり良い出来だと思うのでオススメ出来る作品と言える。

 

小ネタ

戦場でのシーンが主なため、大量の偽死体が設置された。
それに伴って、製作チームは地元住民などが死体を本物と勘違いしてしまう事を防ぐために「これらの死体は全て模造品です」という看板を設置した。

 

 

 

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『ロープ 戦場の生命線』感想・紹介・レビュー【上質な会話劇】

ロープ 戦場の生命線

ロープ 戦場の生命線(字幕版)

 

2015年に公開されたスペインのブラックコメディ映画。
監督・脚本をフェルナンド・レオン・デ・アラノア、共同脚本をディエゴ・ファリアスが務めた。

出演
  • ベニチオ・デル・トロ
  • オルガ・キュリレンコ
  • ティム・ロビンス
  • メラニー・ティエリー
  • フェジャ・ストゥカン
  • セルジ・ロペス

 

序盤のあらすじ

1995年、停戦直後のバルカン半島。

ある村で井戸に死体が投げ込まれ生活用水が汚染されてしまう。

それは水の密売ビジネスを企む犯罪組織の仕業だった。

国籍も年齢もバラバラの5人で構成される国際援助活動家”国境なき水と衛生管理団”は、死体の引き上げを試みるが、運悪くロープが切れてしまう。

やむなく、武装集団が徘徊し、あちこちに地雷が埋まる危険地帯を、1本のロープを求めてさまようが、村の売店でも、国境警備の兵士にもことごとく断られ、なかなかロープを手に入れることができない。

そんな中、一人の少年との出会いがきっかけで、衝撃の事実と向き合うことになる・・・。

引用:(C)2015,REPOSADO PRODUCCIONES S.L.,MEDIA PRODUCCIONES S.L.U.

 

今作は、パウラ・ファリアスの小説『Dejarse Llover』を原作とし、1995年のユーゴスラビア紛争停戦直後である「バルカン半島のどこか」を舞台としている。
終結から20年以上が過ぎたこの悲惨な紛争を町中に設置された地雷や、重火器を当然の様に持っている少年、繰り返される銃撃戦で廃墟となった建物、数えきれないほどの墓標など様々なその当時の惨状を描きつつ作品として完成させている。

 

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ストーリー展開的な部分にだけ言及すれば、特にこれといって盛り上がりがあるわけでもなく、いわゆる山や谷があるわけでもない。
しかし今作はそんな淡々と何処か気の抜けたような感じで進む中に、視聴者の心の奥をこれでもかと抉ってくるほどエッジの効いた風刺が描かれていたりするのもあって、油断はできない。

 

終始淡々と物静かに展開していくのもあって、人によっては合わないとは思うのだが個人的には物凄く好きな作品だった。
ネタバレになってしまうので詳細は避けるが、よくこんなストーリーを考えたなと関心してしまう。
ただ、あえて説明をせずに進むような場面が多いので、そのシーン毎にある程度脳内補完出来る人の方がもしかしたら向いているかもしれない。

 

前述した通り舞台としては停戦状態とはいえ、紛争地帯なのでグロや過激な暴力のシーンがあると心配する人も居るかもしれないが、その心配はいらない。
勿論皆無なわけではないのだが、上手くその存在をぼやかしているのでそういった描写が苦手な人も安心して物語の展開に集中することが出来るのではないだろうか。
そして、主要な登場人物も少なく絞られているので、急に出てくる人物などで惑わされることもない。

 

戦争や紛争を扱った映画として考えれば、ありがちな銃撃戦は皆無。
そういったものが好きな人には物足りないかもしれないが、無くても全くダレることなく良いテンポ感を保ちながら進むストーリーは素晴らしい。
一見するとドキュメンタリーのような気さえする世界の現実の過酷さに胸を打たれるが、終盤はキッチリと「映画」として上手くまとめられているのもよい。

 

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ブラックコメディ的要素も要所要所に散りばめられていて、個人的にはオルガ・キュリレンコ演じる新人の演技が良かった。
序盤では動物以外の死体など見たこともなく、見るだけでかなりの精神的ショックを受けていた彼女も物語が進むにつれ死体に冗談を飛ばすようになってしまう。
この「異常な状態における感覚・感情の麻痺」が細かく描かれている。

 

ベニチオ・デル・トロが出演している作品で『ボーダーライン』というものがあるのだが、そちらの主人公(エミリー・ブラント)も徐々に麻痺していってしまう様が見事に描かれている。
しかし、あちらは戦地のど真ん中と言って良いような状態で尚且つ、その中に飛び込んでいくストーリーなのである意味で言えば麻痺してしまうのも当然かもしれない。
同じく麻痺するにしても様々な描き方があるんだなと感心させられた。

 

 

『ボーダーライン』の記事はこちら

 



紛争地帯が舞台にはなっているが、メインは主人公たちの会話劇なのもあって、派手なアクションやショッキングな演出に食傷気味であれば1度視聴することをオススメする。

 

 

 

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