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『ロープ 戦場の生命線』感想・紹介・レビュー【上質な会話劇】

ロープ 戦場の生命線

ロープ 戦場の生命線(字幕版)

 

2015年に公開されたスペインのブラックコメディ映画。
監督・脚本をフェルナンド・レオン・デ・アラノア、共同脚本をディエゴ・ファリアスが務めた。

出演
  • ベニチオ・デル・トロ
  • オルガ・キュリレンコ
  • ティム・ロビンス
  • メラニー・ティエリー
  • フェジャ・ストゥカン
  • セルジ・ロペス

 

序盤のあらすじ

1995年、停戦直後のバルカン半島。

ある村で井戸に死体が投げ込まれ生活用水が汚染されてしまう。

それは水の密売ビジネスを企む犯罪組織の仕業だった。

国籍も年齢もバラバラの5人で構成される国際援助活動家”国境なき水と衛生管理団”は、死体の引き上げを試みるが、運悪くロープが切れてしまう。

やむなく、武装集団が徘徊し、あちこちに地雷が埋まる危険地帯を、1本のロープを求めてさまようが、村の売店でも、国境警備の兵士にもことごとく断られ、なかなかロープを手に入れることができない。

そんな中、一人の少年との出会いがきっかけで、衝撃の事実と向き合うことになる・・・。

引用:(C)2015,REPOSADO PRODUCCIONES S.L.,MEDIA PRODUCCIONES S.L.U.

 

今作は、パウラ・ファリアスの小説『Dejarse Llover』を原作とし、1995年のユーゴスラビア紛争停戦直後である「バルカン半島のどこか」を舞台としている。
終結から20年以上が過ぎたこの悲惨な紛争を町中に設置された地雷や、重火器を当然の様に持っている少年、繰り返される銃撃戦で廃墟となった建物、数えきれないほどの墓標など様々なその当時の惨状を描きつつ作品として完成させている。

 

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ストーリー展開的な部分にだけ言及すれば、特にこれといって盛り上がりがあるわけでもなく、いわゆる山や谷があるわけでもない。
しかし今作はそんな淡々と何処か気の抜けたような感じで進む中に、視聴者の心の奥をこれでもかと抉ってくるほどエッジの効いた風刺が描かれていたりするのもあって、油断はできない。

 

終始淡々と物静かに展開していくのもあって、人によっては合わないとは思うのだが個人的には物凄く好きな作品だった。
ネタバレになってしまうので詳細は避けるが、よくこんなストーリーを考えたなと関心してしまう。
ただ、あえて説明をせずに進むような場面が多いので、そのシーン毎にある程度脳内補完出来る人の方がもしかしたら向いているかもしれない。

 

前述した通り舞台としては停戦状態とはいえ、紛争地帯なのでグロや過激な暴力のシーンがあると心配する人も居るかもしれないが、その心配はいらない。
勿論皆無なわけではないのだが、上手くその存在をぼやかしているのでそういった描写が苦手な人も安心して物語の展開に集中することが出来るのではないだろうか。
そして、主要な登場人物も少なく絞られているので、急に出てくる人物などで惑わされることもない。

 

戦争や紛争を扱った映画として考えれば、ありがちな銃撃戦は皆無。
そういったものが好きな人には物足りないかもしれないが、無くても全くダレることなく良いテンポ感を保ちながら進むストーリーは素晴らしい。
一見するとドキュメンタリーのような気さえする世界の現実の過酷さに胸を打たれるが、終盤はキッチリと「映画」として上手くまとめられているのもよい。

 

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ブラックコメディ的要素も要所要所に散りばめられていて、個人的にはオルガ・キュリレンコ演じる新人の演技が良かった。
序盤では動物以外の死体など見たこともなく、見るだけでかなりの精神的ショックを受けていた彼女も物語が進むにつれ死体に冗談を飛ばすようになってしまう。
この「異常な状態における感覚・感情の麻痺」が細かく描かれている。

 

ベニチオ・デル・トロが出演している作品で『ボーダーライン』というものがあるのだが、そちらの主人公(エミリー・ブラント)も徐々に麻痺していってしまう様が見事に描かれている。
しかし、あちらは戦地のど真ん中と言って良いような状態で尚且つ、その中に飛び込んでいくストーリーなのである意味で言えば麻痺してしまうのも当然かもしれない。
同じく麻痺するにしても様々な描き方があるんだなと感心させられた。

 

 

『ボーダーライン』の記事はこちら

 



紛争地帯が舞台にはなっているが、メインは主人公たちの会話劇なのもあって、派手なアクションやショッキングな演出に食傷気味であれば1度視聴することをオススメする。

 

 

 

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