洋画な日常

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『ハンターキラー 潜航せよ』感想・紹介・レビュー【潜水艦娯楽スリラー】

ハンターキラー 潜航せよ

ハンターキラー 潜航せよ(字幕版)

 

2018年に公開されたアメリカ合衆国のスリラー映画。
監督をドノヴァン・マーシュ、脚本をアーン・シュミット、ジェイミー・モスが務めた。

出演
  • ジェラルド・バトラー
  • カーター・マッキンタイア
  • ゲイリー・オールドマン
  • コモン
  • リンダ・カーデリーニ
  • トビー・スティーブンス

 

序盤のあらすじ

ロシア領バレンツ海にてアメリカ合衆国海軍潜水艦USSタンパベイが何者かに撃沈され、消息を絶つ。軍上層部は詳細を調べるためにジョー・グラス艦長の指揮する潜水艦USSアーカンソーの派遣を決定する。

一方、ロシア連邦のザカリン大統領は北海に面したコラ半島のフィヨルドの奥にあるポリャルヌイ海軍基地を訪れていたが、ドゥロフ国防大臣率いるタカ派がクーデターを起こし、身柄を拘束されてしまった。

事態を察知したアメリカは4名のNavy SEALsを現地に派遣し、情報収集を行いつつ、状況の打開を模索する。ジョン・フィスク海軍少将はザカリン大統領を救出する作戦を立案し、ドーヴァー米大統領は世界の秩序を守るべく作戦を承認する。

引用:Wikipedia

 

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本作は、ドン・キースと米海軍潜水艦の元艦長であるジョージ・ウォレスが2012年に発表した同名小説全6巻の第1巻を原作とし、沈んだロシア原潜をきっかけにロシア国内で世界を揺るがす陰謀を巡る禁断の作戦を描いた作品。

 

「潜水艦物」というと

・K-19

・Uボート

・レッドオクトーバーを追え

などなど名作ぞろいで尚且つ(個人的には)外れがないカテゴリーとして有名だが、今作はかなり大味な仕上がりになっているので、重厚で社会派な雰囲気を期待して観始めてしまうと評価は落ちてしまうかもしれない。

 

 

 

 

ただ、潜水艦を舞台にした1つのスリラー娯楽映画として考えると出来は悪くない。
主人公の自らは決して攻撃を仕掛けないという強い意志や、ロシア海軍の駆逐艦乗組員の前艦長に対する思いがひしひしと伝わってくる演出などで、見応えは充分。
若干、アメリカのロシア大統領に対する偏った願望が入っているのは気にならないわけではないが・・・。

 

タイトルやあらすじ的に「潜水艦物」として観ない方が良いというのも無理のある話かもしれないが、勧善懲悪のドンパチ映画として観れば王道も王道で悪くない。
潜水艦戦とSEALsによる救出作戦がほぼ同じバランスで同時進行することで、テンポがダレる事もない。

 

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そして「潜水艦物」で良く聞くレビューとして「暗い」「淡々としすぎ」「重い」といったような、正直そのカテゴリーであれば誉め言葉だろうとは思うのだが今作はそういった要素も少ないので万人向けな作品に仕上がっているのも気軽に観ることの出来るポイントだろう。

 

気軽に観られるが故に、ツッコミどころが結構ある。
正直気にせずに頭空っぽにして少年漫画を観るような気持ちで視聴すれば楽しめるとは思うのだが、合わない人も居るとは思うので突っ込み所を少し紹介。

 

・冒頭でロシアの潜水艦を1隻轟沈させているのに、トマホークを撃つ撃たないで若干揉める。

・詳細は避けるが、司令部の中には指揮系統に逆らえずただただ従っていただけの人間が一定数居るとは思うのだが、そういった人々の描写が無く一方的にアメリカ合衆国の視点だけで語られているのが残念。

 

挙げるとまだあるのだが、あまりやるとネタバレが過ぎるのでこのへんで。

 

 

 

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『アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男』感想・紹介・レビュー【国家と国民】

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男

アイヒマンを追え! ナチスがもっとも畏れた男(字幕版)

 

2015年に公開されたドイツの伝記映画。
監督・脚本をラース・クラウメ、共同脚本をオリヴィエ・ゲーズが務めた。

出演
  • ブルクハルト・クラウスナー
  • ロナルト・ツェアフェルト
  • リリト・シュタンゲンベルク
  • イェルク・シュットアウフ
  • ゼバスティアン・ブロンベルク
  • ミヒャエル・シェンク

 

序盤のあらすじ

1950年代後半、西ドイツ・フランクフルト
経済復興が進む一方、戦争の記憶が風化しようとしていく中、検事長のフリッツ・バウアーはナチス戦犯の告発に執念を燃やしていた。

そんなある日、彼のもとに、逃亡中のナチスの大物戦犯アドルフ・アイヒマンがアルゼンチンに潜伏しているという重大な情報を記した手紙が届く。

バウアーはアイヒマンの罪をドイツの法廷で裁くため、部下のカールと共に証拠固めと潜伏場所の特定に奔走するが、ドイツ国内に巣食うナチス残党による妨害や圧力にさらされ、孤立無援の苦闘を強いられる。

引用:Wikipedia

 

アドルフ・アイヒマンとは

アドルフ・オットー・アイヒマン(1906.3.19-1962.6.1)はゲシュタポのユダヤ人移送局長官であるとともに、アウシュヴィッツ強制収容所へのユダヤ人移送に関わった人物。ホロコーストに関与し、数百万人に及ぶ強制収容所への移送における指揮的な役割を担った。

 

今作は、ナチスドイツの最重要戦犯であるアドルフ・アイヒマンを逮捕するに至り、その陰の功労者であるドイツ人検事フリッツ・バウアーの執念と苦悩や葛藤を描いた作品。
他に、フリッツ・バウアーをメインに据えた作品としては『検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男』というものがある。

 

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2作品とも同一人物を扱った作品ではあるのだが、明確な違いが存在する。
本作は”フリッツ・バウアー”という1人の人間をより深く捉え、その人物像から人間性などをしっかりと描いているため魅力的なキャラクターとして出来上がっている。
『検事フリッツ・バウアー』の方は本人の掘り下げというよりも、アデナウアー政権の詳細やこの戦後ナチスにおける戦犯狩りの事態の大きさをしっかりと描いている。

 

なので個人的には、先に『検事フリッツ・バウアー ナチスを追い詰めた男』を観て全体像や当時起きたことの詳細を把握し、次に今作を観る事でより理解が深まり知識として純粋に知ることが出来るだけでなく、より作品を楽しむことが出来るのではないだろうか。

 

何よりも題材が題材なので基本的にはある程度、この時代の関連知識や欧州各国の情勢に時代背景などを理解している人向けというのもある。
そもそも、海外逃亡したナチスドイツ高官とナチスドイツ出身の要職と、国外退避しているユダヤ系の検事が対立している構図なので日本人には若干分かりにくい部分もある。
そして良くも悪くも、この重厚なストーリーを上手く1時間45分という短い時間の中で成立させているのもあって、上手く作られたサスペンスもののように見えてしまうかもしれない。

 

勿論、全く知らなかったとしても(全くというのは余りないと思うが)上記の順番で観れば大まかな理解は出来るとは思うが、短い時間で纏められているのもあり知っていた方がスムーズに作品の世界に入ることが出来る。

 

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今作の素晴らしい点は伝記映画として必要十分な完成度であるだけでなく、映画という創作物として面白く観る事が出来るという点。
実話ベースの作品の場合は、このバランスが難しくどちらか一方に偏ってしまうと成立しにくい。

 

実話に偏ってしまうと、伝記映画としては勿論素晴らしい物にはなると思うが映画としての魅力が減り、視聴者を置いてけぼりにしてしまう危険性がある。
創作物に偏ってしまえば、映画としては見応えが出るかもしれないが伝えなければならない真実や、事実をしっかりと視聴者に届ける事が出来なくなってしまう。

 

相変わらず邦題は気になるが、渋めに輝く俳優陣と緊迫感漂う空気感は観ている者を世界に引き込み、心地よい好奇心が煽られる大人の映画として素晴らしい出来。

 

 

 

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『ロスト・ボディ』感想・紹介・レビュー【その人生が交差する時】

ロスト・ボディ

ロスト・ボディ(字幕版)

 

2012年に公開されたスペインのサスペンススリラー映画。
監督・脚本をオリオル・パウロ、共同脚本をララ・センディムが務めた。

出演
  • ホセ・コロナド
  • ウーゴ・シルバ
  • ベレン・ルエダ
  • アウラ・ガリード

 

序盤のあらすじ

ある夜、死体安置所から亡くなったばかりの女性マイカの遺体が消える事件が起きる。

事件を担当することになったハイメ警部は、マイカの年下の夫アレックスの態度から、彼が妻を殺害し、その証拠を隠蔽するために彼女の遺体を盗み出したと睨んで厳しく尋問するが、アレックスは頑なに否定する。

実はアレックスは、金持ちで支配的な妻マイカの存在をかねてより疎ましく思っており、そんな中で知り合った若い女性カルラと愛し合うようになっていたことから、確かに妻を毒殺していたのだ。

引用:Wikipedia

 

今作は、ある殺人事件の被害者であるマイカという女性の遺体が、嵐の夜に死体安置所から忽然と消えた事件と彼女の死の真相を巡るストーリーを地味ではあるが、秀逸なプロットと考えられた骨太なサスペンスとして描いた作品。

 

捜査を担当することになった刑事
事件の被害者であるマイカ
被害者の年下旦那
その旦那の不倫相手である女子大生

 

この4人の人生が図らずも交差したときに大きな驚きを感じることが出来る。
サスペンス物なので多少は都合のいい部分も存在するが、きちんと作り込まれたプロットに散りばめられた伏線、丁寧で違和感のない回収方法、俳優陣の素晴らしい演技によって、そういった粗などはそこまで気にならずに観る事が出来ると感じた。

 

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それに加え、要所要所でホラー映画の撮影法とも感じる手法を取り入れており、時折ホラー映画を観ているような感覚にも陥らせてくれる。
しかしホラー要素が強くなりすぎることもなく、それらがいい刺激になり上質な作品へと昇華させている。

 

観ている際の印象としては、序盤で様々な謎や世界観や人物像などをしっかりと描き、物語が中盤に差し掛かる頃には事件の概要が頭の中ではある程度整理出来る段階になるので、終盤に向けてストーリーの展開について予想し始めるが、考えれば考えるほどどれもこれもしっくりこない。
そしてその違和感は物語のラストを観ることで全て解決し、観終わるとしっかり作り込まれた上質なミステリーを観たと感じることが出来た。

 

作風的に推理することによって成立する映画の場合は、その犯人又は黒幕や結末に驚かされることは多々あるが、ここまできっちりと良く出来たサスペンスはそこまで多くない。
冒頭からずっと不可解な事柄の連続ではあるのだが、それらを記憶し考えをかなり巡らせれば犯人まで辿り着こうと思えば辿り着ける作り。

 

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それはつまり、結末に矛盾が無く散りばめられた伏線や謎も全て意味があるからこそ。
小説には「本格推理小説」というカテゴリーがあるが、今作は小説であればそこに入れてもいいくらい完成度が高い。

 

この作品に限った話ではないが、サブスクの動画配信サービスなどで、日本では劇場未公開の作品を見つけて視聴しそれが良かった時の「良い物見つけたな」という感覚は他ではなかなか味わえない気がする。
ハリウッド映画などは結構な割合で劇場公開されるが、今作を始めとするその他の国の映画はあまり劇場では観ることが出来ないせいもあってか、ハリウッドとは明らかに異なる独特な質感や進行の仕方に魅せ方というのは観るたびに毎回新鮮味を感じる。

 

特に今作はフランス等の欧州映画ほど映像から感じる暗さ、重さ、気怠さなどは感じずに観ることが出来るので、普段劇場でやっているような話題作的なものしか観ない人でも気軽に楽しめるのではないだろうか。

 

 

 

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『完全なる報復』感想・紹介・レビュー【緻密な復讐劇】

完全なる報復

完全なる報復 (字幕版)



2009年に公開されたアメリカ合衆国のヴィジランテサスペンス映画。
監督をF・ゲイリー・グレイ、脚本をカート・ウィマーが務めた。
原題:Law Abiding Citizen(法律を遵守する市民)

出演
  • ジェラルド・バトラー
  • ジェイミー・フォックス
  • ブルース・マッギル
  • レスリー・ビブ
  • コルム・ミーニイ
  • ヴィオラ・デイヴィス
  • レジーナ・ホール

 

序盤のあらすじ

ペンシルベニア州フィラデルフィア。

優秀なエンジニアであるクライド・シェルトンは、愛する妻と幼い娘と共に幸せな家庭を築いていた。

ある日、家を2人組の強盗に襲われてクライドは目の前で妻子を惨殺され、自身も重傷を負う。

間もなく犯人たちは逮捕されるが、確実に有罪にできるほどの証拠はなく、司法に熟達し、野心家でもある担当検事ニック・ライスは、自身の高い有罪率を維持するためにクライドの意向を無視し、一方的に主犯であり直接妻子を殺害したダービーと司法取引を行う。

結果、従犯に過ぎなかった気弱な青年エイムスに死刑判決が下る一方で、ダービーは数年の刑期に留まり、さらに法廷では「運命には逆らえない」と嘯く。

引用:Wikipedia

 

今作は、家族と幸せに暮らしていたが妻子を無残に殺害され、その事件に関わった人間に対しての復讐に燃える関節殺人のエキスパートであるジェラルド・バトラー演じるクライト・シェルトンと、彼が起こす事件を担当しながらも自らも復讐の対象となっているジェイミー・フォックス演じるベテラン検事の終わりの見えない攻防劇を描いた作品。

 

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冒頭で「ヴィジランテサスペンス」と紹介したが、ヴィジランテって何?という人も居ると思うので軽く解説。
ヴィジランテ=数多く存在する映画ジャンルの1つで、主人公が正当な司法の手から離れて私刑や復讐のために犯罪者や組織を相手にする作品。
良く見られるパターンは、家族などを殺害されるなどして司法制度に失望した主人公が私刑によって復讐を達しようとする復讐映画。

 

復讐をする側のクライドが主人公ではあるのだが、司法取引を行って自ら担当する裁判の有罪率を上げることで出世を狙う検事のニックも、典型的な出世欲に駆られた男というだけでなく家庭を大事にする「良き夫」としても描かれているので、どちらにでも感情移入することが出来ると思う。

 

そして序盤はただ純粋に復讐に走っているだけに思えるクライド。
しかし、中盤辺りから復讐という要素がないわけではないものの、アメリカ合衆国の歪んだ司法制度をどうにかして変えたいという側面も見えてくるのがポイント。
法律をあざ笑うかのように関係者を次々と時には不必要に暴力的な方法で抹殺しているが、このやり過ぎと思わせる事こそ狙いなのだろう。

 

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ストーリー展開もその要素のおかげで視聴者を引き込む作りになっている。
シナリオは分かりやすく作り、冒頭に誰がどう見ても悪人として判断するであろう悪役を出すことで主人公の復讐を正当化させることで、序盤はこの復讐劇を復讐者の立場で観進めていく。
中盤辺りまで進むと前述した「やり過ぎ」と思わせるようなシーンを連続して流すことによって、視聴者は復讐を阻止する側(検事であるニック)の立場に徐々に移っていく。

 

ストーリー展開自体が複雑な展開をすることで引き込むのではなく、視聴者の心を登場人物の間で行ったり来たりさせることでグッと物語に引き込む手法は素晴らしい。
勿論「やり過ぎ」なシーンはそういった意味合いで必要不可欠なものなので、苦手な人はちょっと難しいかもしれないが観ればなぜ必要なのかというのが分かると思う。

 

これは個人的な感想かもしれないが、ジェラルド・バトラーの醸し出す雰囲気と演技力、表現力がこの「やり過ぎ」感のあるキャラクターを成立させていると感じた。
家族とともに過ごしている時の心優しい父親の表情と、冷酷に躊躇なく決して本当の感情を表に出すことなく次々と殺害していく時の表情のギャップが凄まじいのだが、それを見事に違和感なく演じている。


他作品でもそうだが、ジェラルド・バトラーが演じている役の場合はどんなことをやったとしても「この人ならやりそう、やれそう」と、思わせる領域まで達しているのではないだろうか。

 

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ラストの展開や結末に関しては賛否両論あるとは思うのだが、2時間に満たない映画という1つの作品の中で纏めることを考えると、個人的にはそれなりに悪くない落としどころだったし、分かりやすいストーリーでありながら考えさせられる内容で良作だと感じた。

 

 

 

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『バグダッド・スキャンダル』感想・紹介・レビュー【人道支援と不正】

バグダッド・スキャンダル

バグダッド・スキャンダル(字幕版)

 

2018年に公開されたデンマーク・カナダ・アメリカ合衆国の社会派映画。
監督・脚本をペール・フライ、共同脚本をダニエル・パインが務めた。

出演
  • テオ・ジェームズ
  • ベン・キングズレー
  • レイチェル・ウィルソン
  • ジャクリーン・ビセット
  • ロッシフ・サザーランド
  • ベルチム・ビルギン

 

序盤のあらすじ

フセイン大統領時代のイラク。

国民は経済制裁の影響で生活が困窮。

国連は「石油を販売したお金でイラク国民に食料を買い配る」という夢の人道支援プログラムを開始。

しかし現実は、様々な国籍の人間がその計画に群がり食い尽くす悪夢の始まりだった。

莫大な予算ゆえに欲望が渦巻き、汚職、裏切り、殺人が入り乱れ、銀行や実業家、政治家も次々に取り込まれていく。

イラク戦争のその陰で実際に行われていた知られざる衝撃の事実。

引用:2016 CREATIVE ALLIANCE P IVS/BFB PRODUCTIONS CANADA INC.ALL RIGHTS RESERVED.

 

今作は元国連職員であるマイケル・スーサンが自身の体験をもとに執筆した小説『Backstabbing for Beginners』の映画化で、1996年~2003年までの7年間にイラクで実施された石油食糧交換プログラムを土台に、国連史上最悪の政治スキャンダルを描いた作品。
このプログラムは、湾岸戦争後のイラクでの再軍備を防ぐという名目で行われ、石油の販売にて得た利益の使い道の規制を国連が行ったもの。

 

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このプログラムでは日本円に換算して石油輸出に約7兆3600億円、食料品や日用品などの輸入に約4兆2250億円が動いたと言われているが、当時イラク政府は石油を実際公表していた値段よりも安く売り、物資は高く買うことでその値段の差で賄賂を生み出していた。
そしてこれらにはイラク政府だけでなく、プログラムを支援者たちもその不正に関与していた。

 

今作公開後、この不正に関連した汚職調査を国連が拒否したのもあって全容解明には至っておらず、作中で描かれていることが何処まで事実なのか、調査を拒否したという事実だけが残ったが故に実際はもっと酷かったのではと勘ぐってしまうが、作品にはその不正の経緯などの全貌とそれを告発した勇気あるアメリカ人の姿が描かれていて、それはもう酷いという一言では言い表すことが出来ない。

 

この「石油食料交換プログラム」が終了してからこの資金に関する汚職は約2000億円を越えることが明らかになり、その後のアメリカ合衆国政府会計局の調査によると汚職の一部だけでも推定で1兆円を越える汚職であったことが指摘されるも前述した通り国連の調査拒否によって結果は出ずじまい。

 

今作がこの一連の事件を全て描いている訳ではないし、ノンフィクションというわけでもないので全てを真実として真に受けるのはまた違うとは思うが、詳細は別としてこういった本来ならば1つの荒れに荒れてしまった国の困窮する人々を救うはずの人道支援プログラムですら利用し、私利私欲をどうにかして満たそうとする輩が世界中何処にでもいるという事を知るきっかけとしては良い映画なのではないだろうか。

 

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本来ならばこういった不正が起こらないことが当然であり健全ではあるのだが、人が関わるとどこかしらで歪みが生じてしまう。
唯一の救いと言えば、自らの意思で不正を暴こうとする人が少なからず内部に居たという事。


莫大な金が動くプログラムに醜くも群がる国や企業、権力者たちの根深い生臭い不正を事実を基にしてはいるものの、1つの映画として楽しめるようにスパイアクション、クライムアクションのような陰謀や策略などもバランスよく散りばめて目が離せない作品に仕上がっている。

 

 

 

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『ボヘミアン・ラプソディ』感想・紹介・レビュー【圧倒され続ける2時間14分】

ボヘミアン・ラプソディ

ボヘミアン・ラプソディ (字幕版)

 

2018年に公開されたイギリス・アメリカ共同制作の伝記映画。
監督をブライアン・シンガー、脚本をアンソニー・マクカーテンが務めた。

出演
  • ラミ・マレック
  • ルーシー・ボイントン
  • グウィリム・リー
  • ベン・ハーディ
  • ジョゼフ・マゼロ
  • エイダン・ギレン

 

序盤のあらすじ

1970年代初頭のロンドン、ゾロアスター教徒ペルシャ系移民出身の青年ファルーク・バルサラは、移民差別を受けつつも音楽に傾倒していた。

ある日ファルークはファンだったバンド「スマイル」のメンバーでギタリストのブライアン・メイ、ドラマーのロジャー・テイラーに声をかけ、ヴォーカリストが脱退したばかりの同バンドに見事な歌声を披露して新しいヴォーカル兼ソングライターとなり、同じく新メンバーのベーシスト・ジョン・ディーコンとともに新生バンドをスタートさせる。

厳格な父とは折り合いが悪く、活動の再出発を前に、自分のルーツを嫌って「フレディ」と名乗り始めた。

同じ時期、フレディはケンジントンのお洒落な人気ブティック「BIBA」の店員メアリー・オースティンと知り合い恋に落ちる。

「クイーン」と改名したバンドは、ワゴン車を売却してアルバムを自主制作する。

引用:Wikipedia

 

今作は知らない人の方が少ないであろう、イギリスのロックバンド・QUEENのボーカルだったフレディ・マーキュリーに焦点を当てて、1970年のQUEEN結成から1985年のライヴエイド出演までの軌跡を描いた作品。
作品の音楽プロデューサーはQUEENのメンバーである、ブライアン・メイとロジャー・テイラーが務めている。

 

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自分は年齢的にリアルタイムではQUEENに触れるという事は出来なかったが、小さい頃から洋楽を良く聴いていた中でQUEENの楽曲には数多く触れてきた。
そんな自分が観てもこの作品に対する制作陣、俳優陣の本気度が物凄く伝わってくる。
作中のパフォーマンスは細部まで再現されていて、本人には失礼かもしれないし往年のファンからしたら言いたいことがあるかもしれないが、まるでフレディがそこに居るかのような錯覚すら憶えるほどの衝撃だった。

 

QUEENが奏でる数多くの名曲の誕生秘話を絡めつつ、70年代の彼らを鮮明に再現している映像には洋画好きとして関心させられるだけでなく、QUEENファンとして感動する以外の選択肢がなかった。

 

2020年12月現在では実現不可能な理想論だが、この作品ほど劇場で観てほしいと強く思える作品もそうはない。
どのシーンも素晴らしいが特にライヴエイドのシーンは、ちょっとした粗など探す気を全て吹き飛ばすほどの圧巻のパワー。
体の隅々にまで響き渡るサウンド、まるでライブ会場に居るかのような大歓声はリバイバル上映されない限りもう体感出来ないのかと思うと寂しさを感じるほど。

 

勿論自宅で観ても充分楽しめるのだが、出来る事であれば観る際には大画面で映して迷惑にならないレベルの大音量で観てもらいたい。
極端な話、劇場と同じとは言わないまでも近いような環境を用意して観たとしても後悔することのない作品だ。

 

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ウェンブリー・アリーナを埋めつくす満員の観衆が目に飛び込んできた瞬間から魂が揺さぶられる思いで見入っていたというよりも、その場に自分が存在していた。
『ボヘミアン・ラプソディ』『レディオ・ガガ』を始めとする名曲の数々。
こんなにも長い時間圧倒され続けたことは無かった、それほどまでに驚異的な映像と音だった。

 

「ショウを続けなければならない、

ショウを続けさせてくれ」

 

エンドロールには『ショウ・マスト・ゴー・オン』が流れる。
まるでフレディの悲痛な叫びを聞かされているようで、堪らない思いだった。
ファンのみならず、QUEENとともにあったフレディの生涯に心打たれることは間違いないだろう。

 

小ネタ

製作開始以前は「大人向けの映画」にするか「ファミリー層にアプローチする映画」にするかで俳優陣とQUEEN側に意見の相違があった。
フレディを演じたマレックは役を演じるために喋り方の癖や特徴的な歯を義歯を使用する、激しいセッションなどを行う事でフレディ・マーキュリーという人間を構築していった。

 

 

 

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『ワールド・オブ・ライズ』感想・紹介・レビュー【傲慢と復讐心】

ワールド・オブ・ライズ

ワールド・オブ・ライズ (字幕版)

 

2008年に公開されたアメリカ合衆国のアクションサスペンス映画。
監督をリドリー・スコット、脚本をウィリアム・モナハンが務めた。

出演
  • レオナルド・ディカプリオ
  • ラッセル・クロウ
  • マーク・ストロング
  • ゴルシフテ・ファラハニ
  • オスカー・アイザック
  • サイモン・マクバーニー

 

序盤のあらすじ

世界中を飛び回り、死と隣り合わせの危険な任務に身を削るCIAの工作員フェリス。

一方、彼の上司はもっぱらアメリカの本部や自宅など平和で安全な場所から、現場にいる人間を顧みず冷徹な指示を送るベテランCIA幹部ホフマン。

そんな生き方も考え方も全く異なる彼らは、多くの死者を出し続ける国際的テロ組織リーダーのアル・サリームを捕獲するという重要任務にあたっていた。

しかし、反りの合わない2人は、フェリスがイラクで接触した情報提供者であるニザールをめぐる意見でも対立する。

引用:Wikipedia

 

今作は、デヴィッド・イグネイシャスの同名小説を原作に映画化された作品。
一応戦争をテーマにした映画ではあるが、単純なアクション物というわけではなくCIAとテロリストが絶妙なリアリティと錯綜する頭脳戦を主軸に置き描かれているので、アクション映画を求める人には少し物足りないだろう。


戦地や軍事作戦における頭脳戦や、関係者同士の人間性の対比などどちらかというと硬派よりの作品が好みの人にはピッタリなのではないだろうか。
ただ、アメリカ合衆国特有の傲慢さが余りにもリアルに描かれているのでそういった要素が合わない人にはダメかもしれない。

 

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ラッセル・クロウ演じるCIA中東担当のエド・ホフマンがやり過ぎなのではと思うくらい傲慢で利己的。
アメリカこそ1番だと思っていて、それをなんの躊躇もなくひけらかし中東は世界でも最悪の国家だと考えるだけでなく、差別的な目つきで中東の人々を見る演技は凄まじい。
例え協力者であろうとそれは変わらず「中東」というだけで全く敬意を払う事はしない。

しかし、そのエドの酷さによってディカプリオ演じる主人公フェリスの演技がより一層違和感なく自然に感じられる。
エドからの命令で伝えることは許されていないが、ハニに嘘を付くことになってしまうことへの葛藤の表情や目の演技、ラストシーンの様々な感情が入り混じった絶妙な表情は置かれた状況下を的確に表現し視聴者へそれを伝えることに成功している。

 

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硬派な作風とやり過ぎ感も否めないが攻めた人物設定など、個人的には好みの作品ではあるのだが、リドリー・スコット監督作品としては興行的には不作だった上にいわゆる批評家にウケが良くない。
欧米vs中東という図式は『ブラック・ホーク・ダウン』などのような非常にドライにリアリズムを徹底している点は素晴らしいのだが、今作の場合その先があまりにも明確にアメリカに向けられたものだったのが原因だろう。

 

人を道具としてしか見ていないCIAの中東担当のラッセル・クロウ演じるエドと、その現地でテロリストの探索に文字通り身体を張るレオナルド・ディカプリオ演じるフェリスの関係性は、現代におけるアメリカの中東政策への非難になっているのも国内でウケが良くない理由なのだろうが、裏を返せばそれだけリアリズムを追及した作品だということが分かる。

 

リアリズムを追求した作品はかなり人を選ぶとは思うが、世界での中東という地域の置かれた立場、状況をまざまざと見せつけられ大国の傲慢に振り回されることの理不尽さを痛感する作品だ。

 

小ネタ

『グラディエーター』など様々なリドリー・スコット監督作品に出演しているラッセル・クロウは、電話で直接オファーを受けた。
その時の監督の第一声は「体重を20Kg増やしてほしい」だった。

 

 

 

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『記者たち 衝撃と畏怖の真実』感想・紹介・レビュー【真実の難しさ】

記者たち 衝撃と畏怖の真実

記者たち 衝撃と畏怖の真実(字幕版)

 

2017年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンスドラマ映画。
監督をロブ・ライナー、脚本をジョーイ・ハートストーンが務めた。
原題:Shock and Awe

出演
  • ウディ・ハレルソン
  • ジェームズ・マースデン
  • ロブ・ライナー
  • ジェシカ・ビール
  • ミラ・ジョヴォヴィッチ
  • トミー・リー・ジョーンズ

 

序盤のあらすじ

2001年9月11日に同時多発テロが発生、31紙の地方新聞を傘下に置くナイト・リッダーのウォルコット局長は、ストロベル記者を国務省に派遣、ラムズフェルド国務長官らがアフガニスタンではなくイラクへの出兵を画策している事を突き止める。

これを期にフセインを排除しようとしているのだ。ストロベルはさらに取材を続けるが、フセインとテロの首謀者であるビン・ラディンを結びつける根拠は見つからない。

アメリカでは愛国心の波が広がり、小学校でも愛国教育が行われていることをランデー記者の妻ヴラトカは憂える。

一方、黒人青年のアダムは愛国心に燃えていた。

引用:Wikipedia

 

今作は、イラク開戦に関連する「大量破壊兵器」の有無を巡る捏造問題を実話に基づいて描かれた作品。
作品内では、ブッシュ元大統領を始めとして多くの政治家たちが実際にテレビで行った発言を引用し、この問題の背後で新聞記者たちがどのような考えのもとに行動していたかを鮮明に描き出している。
原題の『Shock and Awe』は和訳すると「衝撃と畏怖」で、米軍の作戦名が由来。

 

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「9.11」と言えばほとんどの人があのショッキングで映画か何かの映像のようにしか見えないテロの様子を思い浮かべることが出来るだろう。
それをきっかけとして、当時のブッシュ政権はイラクが大量破壊兵器を秘密裏に保持し、それらを用いてテロリストを支援しているという理由を基にイラクへの軍事介入を開始する。
それと共に、アメリカだけでなく世界各国の報道各社がアメリカ政府の発表を積極的に報道し、ブッシュ政権の発表内容は最早既成事実と化していった。

 

そんな中、テロを実行したとされる「アルカイダ」ではなくイラクへの軍事介入自体に疑問を持った新聞社ナイト・リッダーの記者である、ウォーレン・ストロベルとジョナサン・ランデーはその疑問に果敢に挑んでいく内容を生々しく描き切っている。

 

『グリーンゾーン』『ゼロ・ダーク・サーティ』など、このイラク戦争に関わる作品は数多く存在する。
それら全てが「大量破壊兵器は無かった」という事実と、当時のブッシュ政権への批判や皮肉を表現している。

今作は戦地や作戦の内容を描いた他作品とは異なり、ジャーナリズム1点を淡々と描いている点で人によっては派手さやアクション的な見応えは劣るかもしれないが、某新聞社が御用新聞に成り下がったが故に大手の新聞社がほとんど政府寄りになっていた事実などを知ることが出来る内容は素晴らしい。

 

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勿論「大量破壊兵器がある」という証拠のない声明1つで、空爆を行い300万人以上の命を奪うことが出来てしまっている時点で、作品含め何処まで事実で何処までが捏造なのか分からないのが実際の所だろう。
それほどまでに当時のアメリカ政府はブッシュ元大統領をはじめとして、ラムズフェルドやライスを含めた大統領の周囲を固めたブレーンたちが持ち合わせていて当然である”何か”が欠如していたとも言える。

 

この作品はそういった内容を伝えようとしているのは分かる。
しかし、内容の割に映画の時間を短くし過ぎていて、記者たちの苦悩や葛藤などを含めた心理描写のディテールが粗くなってしまっている。
そして、当時の政府側の立場の人間視点での映像や会話などがないのでテーマは良いのだが、表面的になってしまっているのも非常にもったいない。

 

様々な角度から立体的にストーリーを構築すれば社会派映画として、もっと良い作品になったという点では残念ではあるが、当時のアメリカ政府や世界的な情勢を知る映画としてはまぁ悪くは無いのではないだろうか。

 

小ネタ

作品には監督であるロブ・ライナーもジョン・ウォルコット役として出演しているが、それは撮影中にアレック・ボールドウィンがギャラの都合で降板することになった為である。

作中にウォルコットが部下を鼓舞するために、スピーチを行うシーンが存在する。
このシーンは脚本家がアレンジした台詞に従って演技をする予定だったが、ウォーレン・ストロベルの助言もあり、実際のスピーチに従って演技をすることにした。