『記者たち 衝撃と畏怖の真実』感想・紹介・レビュー【真実の難しさ】
記者たち 衝撃と畏怖の真実
2017年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンスドラマ映画。
監督をロブ・ライナー、脚本をジョーイ・ハートストーンが務めた。
原題:Shock and Awe
出演
- ウディ・ハレルソン
- ジェームズ・マースデン
- ロブ・ライナー
- ジェシカ・ビール
- ミラ・ジョヴォヴィッチ
- トミー・リー・ジョーンズ
序盤のあらすじ
2001年9月11日に同時多発テロが発生、31紙の地方新聞を傘下に置くナイト・リッダーのウォルコット局長は、ストロベル記者を国務省に派遣、ラムズフェルド国務長官らがアフガニスタンではなくイラクへの出兵を画策している事を突き止める。
これを期にフセインを排除しようとしているのだ。ストロベルはさらに取材を続けるが、フセインとテロの首謀者であるビン・ラディンを結びつける根拠は見つからない。
アメリカでは愛国心の波が広がり、小学校でも愛国教育が行われていることをランデー記者の妻ヴラトカは憂える。
一方、黒人青年のアダムは愛国心に燃えていた。
引用:Wikipedia
今作は、イラク開戦に関連する「大量破壊兵器」の有無を巡る捏造問題を実話に基づいて描かれた作品。
作品内では、ブッシュ元大統領を始めとして多くの政治家たちが実際にテレビで行った発言を引用し、この問題の背後で新聞記者たちがどのような考えのもとに行動していたかを鮮明に描き出している。
原題の『Shock and Awe』は和訳すると「衝撃と畏怖」で、米軍の作戦名が由来。
「9.11」と言えばほとんどの人があのショッキングで映画か何かの映像のようにしか見えないテロの様子を思い浮かべることが出来るだろう。
それをきっかけとして、当時のブッシュ政権はイラクが大量破壊兵器を秘密裏に保持し、それらを用いてテロリストを支援しているという理由を基にイラクへの軍事介入を開始する。
それと共に、アメリカだけでなく世界各国の報道各社がアメリカ政府の発表を積極的に報道し、ブッシュ政権の発表内容は最早既成事実と化していった。
そんな中、テロを実行したとされる「アルカイダ」ではなくイラクへの軍事介入自体に疑問を持った新聞社ナイト・リッダーの記者である、ウォーレン・ストロベルとジョナサン・ランデーはその疑問に果敢に挑んでいく内容を生々しく描き切っている。
『グリーンゾーン』『ゼロ・ダーク・サーティ』など、このイラク戦争に関わる作品は数多く存在する。
それら全てが「大量破壊兵器は無かった」という事実と、当時のブッシュ政権への批判や皮肉を表現している。
今作は戦地や作戦の内容を描いた他作品とは異なり、ジャーナリズム1点を淡々と描いている点で人によっては派手さやアクション的な見応えは劣るかもしれないが、某新聞社が御用新聞に成り下がったが故に大手の新聞社がほとんど政府寄りになっていた事実などを知ることが出来る内容は素晴らしい。
勿論「大量破壊兵器がある」という証拠のない声明1つで、空爆を行い300万人以上の命を奪うことが出来てしまっている時点で、作品含め何処まで事実で何処までが捏造なのか分からないのが実際の所だろう。
それほどまでに当時のアメリカ政府はブッシュ元大統領をはじめとして、ラムズフェルドやライスを含めた大統領の周囲を固めたブレーンたちが持ち合わせていて当然である”何か”が欠如していたとも言える。
この作品はそういった内容を伝えようとしているのは分かる。
しかし、内容の割に映画の時間を短くし過ぎていて、記者たちの苦悩や葛藤などを含めた心理描写のディテールが粗くなってしまっている。
そして、当時の政府側の立場の人間視点での映像や会話などがないのでテーマは良いのだが、表面的になってしまっているのも非常にもったいない。
様々な角度から立体的にストーリーを構築すれば社会派映画として、もっと良い作品になったという点では残念ではあるが、当時のアメリカ政府や世界的な情勢を知る映画としてはまぁ悪くは無いのではないだろうか。
小ネタ
作品には監督であるロブ・ライナーもジョン・ウォルコット役として出演しているが、それは撮影中にアレック・ボールドウィンがギャラの都合で降板することになった為である。
作中にウォルコットが部下を鼓舞するために、スピーチを行うシーンが存在する。
このシーンは脚本家がアレンジした台詞に従って演技をする予定だったが、ウォーレン・ストロベルの助言もあり、実際のスピーチに従って演技をすることにした。