『運び屋』感想・紹介・レビュー【どう生きるか、どう死ぬか】
運び屋
2018年に公開されたアメリカ合衆国のクライムサスペンス映画。
監督・製作・主演をクリント・イーストウッド、脚本をニック・シェンクが務めた。
出演
- クリント・イーストウッド
- ブラッドリー・クーパー
- ローレンス・フィッシュバーン
- マイケル・ペーニャ
- ダイアン・ウィースト
- アンディ・ガルシア
「ニューヨーク・タイムズ」の記事『The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule』を原案とし、80代でシナロア・カルテルの麻薬の運び屋となった第二次世界大戦の退役軍人であるレオ・シャープの実話に基づいた作品となっている。
クリント・イーストウッドに老いという概念は存在しないのだろうか。
この作品公開当時89歳(2020年現在90歳)になるはずなのだが、とてもじゃないが90歳を向かえようとする監督主演作品とは思えない。
派手なアクションがある映画ではないが、麻薬カルテルの運び屋を描くサスペンスの前半から始まり、後半にかけては”仕事”というものに逃げ続け放り出してしまっていた”家族”と再び向き合うヒューマンドラマに変化していくことで、淡々と進んだ結果単調になりがちな展開に上手く緩急を与えている。
そして主演として、家族を顧みず仕事に一生をささげてきたものの時代の波に乗ることが出来ず、事業に失敗しその結果妻には愛想を尽かれ、娘の結婚式にすら出ない。
そのまま表現してしまえば、”人生の敗残者”といったところだろうか。
本来ならスタイルが良かったのであろう高身長も見る影もなく、猫背気味でいつも俯きながら時を過ごしている。
そして何をするにも足取りはおぼつかない1人の老人という周囲のイメージを逆手に取りそれが”コカイン”だと知りながら、知らないふりをし続け『運び屋』としての仕事を飄々とこなしていく様を絶妙な表現力と圧倒的な演技力で演じきっている。
序盤のあらすじ
かつて園芸家として名を馳せたアール・ストーンは経済的に行き詰まり家族と別れ、孤独で資金もない彼に、事業差し押さえの危機が迫っていた。
そんな彼にある日、とある仕事が舞い込んでくる。
それは”ただ車を運転すればいい”だけの簡単な物だった。
しかし引き受けてしまったその仕事は、メキシコの麻薬カルテルの”運び屋”としての仕事だったのだ。
そうとは知らずに犯してしまった過去の過ちが、彼に重くのしかかってくる。
引用:Wikipedia
実話を基にした孤独な老人の映画とはいえ、主人公が常に飄々としているのもあって全く暗さを感じない。
運転をしながら好みの歌を歌いまくると思いきや、周囲にジョークをかまして笑いを誘ったり自分自身の年齢を全く意識していないであろうチャレンジ精神で、若い女性に声をかけたり上手い事捜査官と会話したりとユーモアを感じさせてくれるが故にある意味爽快な気分になる。
この作品を通して、”どう死ぬか” というのを見せられた。
主人公であるアール・ストーンは自分を追う捜査官、自分を利用している組織、自分を恨む家族に今までの人生の反省と贖罪を彼らを含めた周囲の人々との出会いによって考えるに至っているのだろう。
アール・ストーンが発する台詞、行動、表情、仕草その全てが胸に突き刺さる。
この作品を観ると”生き方”ではなく”死に方”の方が人間大事なのではないかと考えさせられた。
このテーマを変に重くせずそれでいて誇張することなく、確実に観ている者にそのまま伝えることの出来る人はクリント・イーストウッド以外に居るだろうか。
だが彼も既に90歳。
関わっている作品を観ると、全く枯れる気配は一切感じないが彼の後継者的存在が出てくることを切に願う。
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