『白鯨との闘い』感想・紹介・レビュー【海と人】
白鯨との闘い
2015年に公開されたアメリカ合衆国のヒューマンアクション映画。
監督をロン・ハワード、脚本をチャールズ・リーヴィットが務めた。
原題:In the Heart of the Sea
出演
- クリス・ヘムズワース
- ベンジャミン・ウォーカー
- キリアン・マーフィー
- トム・ホランド
- ベン・ウィショー
- ブレンダン・グリーソン
序盤のあらすじ
1850年、アメリカの新進作家ハーマン・メルヴィルは、トーマスという男を訪ねた。
トーマスはかつてエセックス号という捕鯨船に乗り組み、巨大な白いマッコウクジラと戦った人々の最後の生き残りだった。
渋るトーマスから当時の壮絶な実話を聞き出すメルヴィル。
1819年、エセックス号は捕鯨基地ナンタケットを出港した。
船長は家柄だけで選ばれた未経験者のポラードで、ベテランの一等航海士チェイスはそれが不満だった。
引用:Wikipedia
今作は、ナサニエル・フィルブリックの『復讐する海 捕鯨船エセックス号の悲劇』を原作とし、家族の為、家柄の為、孤児である為、行き場を失った為など様々な理由で捕鯨船に乗り込んだ男たちの現実が生々しく描かれるとともに、海という自然の恐ろしさを痛感できる作品に仕上がっている。
そして邦題から感じ取ることの出来るイメージとしては、まるで映画のほとんどの時間を白鯨との闘いに割かれているかのように思えると思う。
しかしそうではなく、実際に白鯨と闘ったのはほんの一瞬の出来事でしかなく、基本的には大海原をなすすべもなく漂流するサバイバルを人間模様を絡めつつ描いている。
ただこれは悪い点などではなく当然の事だろう。
娯楽映画によくある長々とそういったシーンを流すのではなく、リアリティを重視し自然の猛威の前では人間などそれこそほんの一瞬で無に帰すことを表している。
なので、邦題的にも巨大なクジラとの戦いを中心に進むと思われてしまうのはある程度仕方のないことではあるのだが、それを期待して観ると肩透かしを食らうので注意。
今作に限った話ではないし、邦題のおかげで日本人に分かりやすくなっているものも無くはないので全否定するつもりは無いが、相変わらず邦題のセンスには疑問が残る。
冒頭にもあるが今作の原題は『In the Heart of the Sea』直訳すると『海の中心部に』となるので大分ニュアンスが変わる。
興行的な部分で変えるのだろうが、その作品の本質をしっかりと見極めたうえで付けてほしいものだ。
作品の評価の本質とはズレてしまったので戻るが、本作は小説『白鯨』に対するメタフィクション的なストーリーとして良い出来。
現代は当然の様に原油というものが存在してそれらを使う事で何不自由なく生活をしているが、この映画の舞台である時代の場合そんなものはなかった。
油と言えばクジラという時代だったわけだ。
そしてその漁は現代を生きる我々には想像を絶する労力と、とてつもない数の尊い命の上に成り立っているものだった。
そして期間も長く一度海へ出ると数年単位で戻らないのは当たり前であるこの漁を舞台に、農民の出ではあるが優秀な一等航海士と未熟な鯨漁の名門育ちのエリート船長という、生まれはおろか育ちも考え方も全く違うであろう2人を軸にしてとてつもなく長く辛い「海」そのものとの闘いを緊張感溢れる演出で描き切っている。
多くの人員や資源を割いてまで出港した捕鯨船。
収穫なしで帰るという選択肢は恐らくなかった。
リスクを承知で遠海へと船を進める。
ズブズブと海の深みにはまっていく。
そして出会う「海の恐怖」そのもの。
そこからどう生き延び、生還するのか。
終始緊迫感溢れる映像に見応えは充分な作品に仕上がっている。
個人的には再度、小説『白鯨』を読み直そうと思わせてくれたそんな作品だった。
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