『ノア 約束の舟』感想・紹介・レビュー【神と人】
ノア 約束の舟
2014年に公開されたアメリカ合衆国の叙事詩的ドラマ映画。
監督・脚本をダーレン・アロノフスキー、共同脚本をアリ・ハンデルが務めた。
原題:Noah
出演
- ラッセル・クロウ
- ジェニファー・コネリー
- レイ・ウィンストン
- エマ・ワトソン
- ローガン・ラーマン
- アンソニー・ホプキンス
序盤のあらすじ
創世記の時代、アダムとイブはエデンの園を追われた後、カインとアベルとセトの3人の子どもをもうける。
番人と呼ばれた光の天使たちは、アダムに人間の愛と弱さを感じ、神に背いて彼らを助けてあげたために堕天使となり、泥の塊のような姿に変えられ天上界に帰る事ができなくなっていた。
カインはアベルを殺し、その子孫たちは堕天使から創造する事を教えられ、文明を築くことができた。しかし人間はいつしか堕天使を裏切り倒してしまう。
それに抵抗したのが唯一神の創造物を大切に守り続けてきたセトの子孫、メトシェラであった。
引用:Wikipedia
今作は、アロノフスキーが第7学年の時に興味を抱いた世界で最も有名なミステリーと言っても過言ではない ”ノアの方舟” を基に作られ、世界の終焉に立ち向かう1人の男の孤独な闘いを圧倒的なスケールと映像技術で描いた作品。
作品を観る上でかなり注意して欲しいのだが、今作は『聖書』や『創世記』を忠実に再現しているような作品ではない。
あくまでもそれらが世界観のベースとなっているだけであって、『聖書』の原型の影も形もとどめていない1つのフィクション作品という前提で観ることをオススメする。
(正教会の司祭からは「『47RONIN』くらい原作を破壊している」と言われている)
そして作品が作品なだけに、キリスト教徒・ユダヤ教徒・ムスリムなどから様々な意見が出ている。
しかし無神論者の立場から観れば、無神論者が抱いている「神が沈黙している理由」などが作品内で示されていたりと、娯楽として純粋に楽しむ作品というよりも色々と考えさせてくれる作品として成り立っていると感じた。
肯定的な意見として、ワシントン・ポストのキャスリーン・パーカーは
- 『ブレイブハート』
- 『グラディエーター』
- 『スター・ウォーズ』
- 『ロード・オブ・ザ・リング』
- 『インディ・ジョーンズ』
- 『タイタニック』
この作品のうち2本以上が好きなのであれば今作も好きになれるだろう、評している。
その一方否定的な意見として、ザ・ニューヨーカーのデヴィッド・デンビーは
「大激流、デジタル戦闘、環境保護主義者の怒りの壮大なごちゃ混ぜで、ここ数年(2014年当時)で最も狂った大作映画である」
と評していたりと、観る人を選ぶのは言うまでもないくらいかもしれない。
タイトルを『ノア 約束の舟(原題:Noah)』としなければ、ここまで否定的な意見もなかったような気もするが。
個人的には映画という作品として考えれば、映像や演出に様々なアイディアはどれを取っても素晴らしい物だと感じたし、俳優陣の細かい演技も称賛に値するものだった。
願わくば、今作を観る人にはタイトルやレビューなどから感じてしまう「先入観」を一切合切取り払ったうえで視聴し、自らの心で判断してみてほしい。
小ネタ
イスラムの教えに反するという政府見解によって、バーレーン、イラン、カタール、サウジアラビア、アラブ首長国連邦、マレーシア、インドネシア、エジプトでは公開が禁止された。
パキスタンでも上映はされていないが、DVDでの視聴は可能となった。
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『ザ・シークレット・サービス』感想・紹介・レビュー【古き良きサスペンスアクション】
ザ・シークレット・サービス
1993年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンスアクション映画。
監督をウォルフガング・ペーターゼン、脚本をジェフ・マグワイヤーが務めた。
出演
- クリント・イーストウッド
- ジョン・マルコヴィッチ
- レネ・ルッソ
- ディラン・マクダーモット
- ゲイリー・コール
- フレッド・ダルトン・トンプソン
序盤のあらすじ
フランク・ホリガンは長年シークレットサービスを務めるベテラン警護官であり、ダラスでのケネディ大統領暗殺計画の際にも現場に配属されていたが、大統領を守ることが出来ず後悔に苛まれ酒に溺れるようになり、妻子も彼の元を去ってしまう。
アメリカでは大統領の再選キャンペーンが始まっており、フランクは相棒のアルと共に大統領暗殺を計画する男のアパートを捜査するが、そこには男はおらず、フランクの顔にマークが書かれているケネディ暗殺事件の記事が壁に貼られていた。
フランクは、この男が本気で大統領を暗殺しようとしていると感じ、アルに調査を進めるように指示するが、彼の元に「ブース」と名乗る男から大統領を暗殺するとの脅迫電話が届く。
フランクは長年の理解者デヴィッドに大統領の警護チームに自分を編入するように口添えを頼み込む。
引用:Wikipedia
今作は、かつてジョン・F・ケネディアメリカ合衆国大統領を守ることが出来なかったが故に、それ以来罪の意識に苛まれ続ける老練なシークレットサービスのエージェントであるフランクと、大統領暗殺を企てる殺し屋との壮絶な闘いを描いた作品。
公開されたのが約30年ほど前(2021年現在)ということもあり、今となっては若干古臭さを感じる作品となってしまっているのは否めない。
しかし、ストーリー展開や設定的には今作後増えてくるタイプの作品のお手本的立場とも言えるかもしれない。
いわゆる、アメリカ合衆国という1つの国が自らの首を自らで締めてしまい、どんどん悪循環へと陥ってしまうという展開は現代でも幅広く使われている。
そしてお手本的立場の作品の場合は大抵良い所、悪い所どちらも含んでいる。
今作の場合は現代の作品よりもシンプルで分かりやすく作られていて、難解になりがちなサスペンスを誰でも気軽に楽しめるような軽めなタッチで描いている点。
人によってはそれが物足りなさを感じてしまう可能性はあるが、昨今の練りに練られた伏線などで構成された作品に食傷気味な人にはいい塩梅なのではないだろうか。
それに加え登場人物がそれぞれキャラが立っていて魅力的なのも良い。
90歳になった今でも現役バリバリ感の凄いクリント・イーストウッドなので当然と言えば当然かもしれないが、とても60歳を過ぎているとは思えないほどの若々しさ。
そして若い頃からドンドン増す貫禄を感じさせる存在感、表現力。
そんなイーストウッドを取って食わんばかりのジョン・マルコヴィッチ。
ミッチ・リアリーのような冷静で残酷性を多分に持ちながらも、同時に天才的な頭脳を持った人物を演じさせたら右に出る者は居ないと思わされるほどのはまり役。
作中で「皮肉だな・・・。政府は俺に殺しを、お前に守り方を教えた。」に続く台詞があるのだが、前半部分も含めこの台詞が作品を象徴しながらもキャラクターに合っていて、物凄く心に来るものがあった。
今まで様々なサスペンスアクションムービーは制作されてきたが、こういった今や古臭いと思われがちな作品こそ、その原点であるということを痛感させられる素晴らしい作品だ。
そして個人的には今観ても満足できる作品だと思っている。
小ネタ
プロデューサーのジェフ・アップルは子供の頃に出会った、第36代アメリカ合衆国大統領リンドン・ジョンソンと彼を警護する黒いスーツにサングラス、イヤホンを身に着けたシークレットサービスの姿から映画化のインスピレーションを得た。
今作は、ハリウッドの映画制作においてデジタル合成技術が本格的に取り入れられた最初期の作品の1つ。
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『特捜部Q カルテ番号64』感想・紹介・レビュー【現代社会、負の遺産】
特捜部Q カルテ番号64
2018年に公開されたデンマーク・ドイツのサスペンスミステリー映画。
監督をクリストファー・ボー、脚本をボー・Hr・ハンセン、ニコライ・アーセル、ミケル・ノルガードが務めた。
原題:Journal 64
出演
- ニコライ・リー・カース
- ファレス・ファレス
- ヨハン・ルイズ・シュミット
- ソーレン・ピルマーク
- アンダース・ホブ
- ニコラス・ブロ
序盤のあらすじ
「特捜部Q」--過去の未解決事件を専門に扱うコペンハーゲン警察の新部署である。
「Q」が今回挑むのは、80年代に起こったナイトクラブのマダムの失踪事件。
調査によるとほぼ同時に5人もの行方不明者が出ているという。
カール警部補は大事件の匂いを嗅ぎつけ捜査に着手。
やがて、壮絶な過去を持つひとりの老女を新進政党の関係者が捜査線上に浮かび上がってくるのだが......。
引用:(C)2018 ZENTROPA ENTERTAINMENTS20,ZENTROPA BERLIN,ZENTROPA HAMBURG
今作は、ユッシ・エーズラ・オールスンが2010年に発表したミステリー小説『特捜部Q』シリーズ4作目でベストセラーとなった『特捜部Q-カルテ番号64-(原題:Journal 64)』を原作とし、未解決事件の捜査を進めていった先に予想だにしない様々な事実が明らかになっていく様を分かりやすい演出と、見応えのある展開で描いた作品。
『特捜部Q』シリーズリスト
- 特捜部Q-檻の中の女-
- 特捜部Q-キジ殺し-
- 特捜部Q-Pからのメッセージ-
- 特捜部Q-カルテ番号64- ⇦これが今作である4作目
- 特捜部Q-知りすぎたマルコ-
- 特捜部Q-吊るされた少女-
- 特捜部Q-自撮りする女たち-
- 特捜部Q-アサドの祈り-
一応カテゴリー的には「サスペンス」「ミステリー」とはなるのだが、映画という作品の中ではそこまで珍しい話ではなく「よくある話」なので、難解で複雑なサスペンス的な展開を期待してしまうと物足りないかもしれない。
しかし、一方で移民問題や民族差別に果敢に踏み込んだ内容となっているため、良く作られた「社会派」な映画をサスペンス風に仕上げたといったところ。
そしてもう1つ、作品を観易くしている要素として主要な登場人物たちのキャラクター設定だろう。
無愛想で不器用な上、人に何言われても治す気配のないカール。
そんなカールに何を言われても行動を共にするアサド。
そしてそんな2人の間を取り持つために奮闘するローセ。
この3人が何だかんだ言いながらも見事なチームワークで事件に挑んでいく様によって、扱っているテーマの重さや暗さをそこまで感じさせずに観る事が出来ているような気がした。(それでも扱っているテーマ自体は繰り返してはならない人の闇の部分だとは思うので苦手な人は注意)
そんな映像の中からは、どこか暖かみを感じさせてくれながらも無駄のないデザインをしたインテリアや、ゆとり教育の元祖と言われる教育現場、高福祉社会。
いずれからも北欧社会の良さ、負の側面どちらもパッケージングしているような雰囲気を感じさせられる。
詳細はネタバレになるので避けるが、日本でも実はつい最近と言っていいほど現代まで続いていた、とある法律を思い起こさせるような気色悪さもしっかりと描かれている。
原作が有名シリーズなのもあって読んだことのある人の場合、賛否両論あるとは思う。
しかし、北欧特有の雰囲気をしっかりと醸し出しつつも現代に通ずつ社会的なテーマを、重く演出しすぎることなく分かりやすく伝える事に成功している作品なので興味のある人は是非観てみてはいかがだろうか。(その上で原作読むとそれはそれで面白い)
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『ディープ・インパクト』感想・紹介・レビュー【最期の時】
ディープ・インパクト
1998年に公開されたアメリカ合衆国のパニック(ヒューマンドラマ)映画。
監督をミミ・レダー、脚本をブルース・ジョエル・ルービン、マイケル・トルキンが務めた。
出演
- ロバート・デュヴァル
- ティア・レオーニ
- イライジャ・ウッド
- ヴァネッサ・レッドグレーヴ
- マクシミリアン・シェル
- モーガン・フリーマン
- リーリー・ソビエスキー
序盤のあらすじ
天文部に所属する高校生、リオ・ビーダーマンは天体観測中に彗星を発見。
その情報を天文台のウルフ博士に伝える。
計算の結果、彗星が地球に衝突するとの結果を弾き出し、博士は情報を持って移動するが交通事故で亡くなってしまう。
1年後、テレビ局に勤めキャスターを目指しているジェニーは、元財務局長官の突然の辞職の理由が「エリー」という女性との不倫スキャンダルだと読んで取材をしていた。
「エリー」に関して嗅ぎつけられたと思った政府はジェニーを連行、アメリカ大統領トム・ベックのもとに通すと、大統領は2日後に行う緊急会見に好待遇で出席させる事を条件に、それまでスクープを伏せて欲しいと要求する。
2日後その緊急会見にて「ウルフ=ビーダーマン彗星」が1年後に地球に衝突する事と、衝突回避のための「メサイア計画」が発表された。
引用:Wikipedia
今作は、こういったパニック映画では一般的に使われている派手なCG演出で人々や動物などが逃げ惑う混沌と化した様子を描くことが多い中、世界的な人類存亡の危機に陥ってしまった状況下における登場人物たちの心理描写や人間関係、その危機に対する政府機関の危機管理対策を主軸にして描くという、典型的なパニック映画とは一線を画す内容となっている。
今作の評価で見るのが、この『ディープ・インパクト』の2か月後に公開された『アルマゲドン』との比較で「地味で見応えに欠ける」「迫力がない」「ディープコンパクト」というような批判的な意見。
その意見も分からなくもないし、そもそもの原因はアメリカの映画制作システムである「1つの映画作品に多いと30人ほどの脚本家が関わる」ということにあるので、似た作品が出来てしまう事によって娯楽やより強い刺激を求める人にとっては、物足りなさを感じてしまうのだろう。
しかしだからといって、今作が1つの作品として劣っているかと言われたらそんなことは一切ないと個人的には考えている。
いわゆる派手な演出の多い娯楽大作と同じような観方をしてしまえば、地味に見えるかもしれないが、「隕石」という人類どころか生物にとっての危機的状況下においての人間ドラマはかなり魅力的。
シェルターに入れば助かる可能性があり、入る権利があるのにも関わらずどうにかしてシェルターに入る権利のない幼馴染を救うために奔走する少年。
同じく権利があるが、父親と命のその最期の瞬間を共に迎えようとするキャスター。
もう助かるという事を諦め、死を受け入れ、身の回りの整理をし始める女性。
様々な立場や状況にある人々が命が助からないことを知った上での様々な行動や心理を丁寧に丁寧に描いている。
それでいて心理描写などを丁寧に描くと退屈に感じてしまう事の多い人間ドラマが多い中、リアリティのある描写に説明口調になることのない展開方法によってあっという間に2時間1分が過ぎ去っていく。
人間だれしも生きていれば逃れることの出来ない「死」。
しかし、この作品の様にある意味では確定的なタイムリミットを突き付けられた時に自分がどういった行動を取るのだろうか、取るべき行動は何なのだろうかと観るたびに深く考えさせられる。
恐らく、実際にこの状況に置かれた多くの人は混乱してまともに思考することなど不可能に近いだろう。
しかし、理由はどうあれ「死」「終わり」というものは確実に訪れる。
それが分かった時に自分がどう考えるのか、どう行動するのかということを今作を通じて1度考えてみてはいかがだろうか。
小ネタ
今作は元々1970年代の中ごろに、リチャード・ザナックとデビット・ブラウンがパラマウント映画からリメイク権を取得し、制作準備に入った。
しかし作業が進まずに計画休止状態となり、スピルバーグが計画していた他作品なども巻き込み1993年にやっと脚本の執筆がなされた。
結果として約20年にもわたって紆余曲折を経た上で制作が開始された。
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『コレクター』感想・紹介・レビュー【サスペンス風バディムービー】
コレクター
1997年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンス映画。
監督をゲイリー・フレダー、脚本をデヴィッド・クラスが務めた。
原題: Kiss the Girls
出演
- モーガン・フリーマン
- アシュレイ・ジャッド
- ケイリー・エルウィス
- トニー・ゴールドウィン
- ジェイ・O・サンダース
- ビル・ナン
- ブライアン・コックス
序盤のあらすじ
犯罪心理学の博士号を持つ警官のクロスは姪のナオミが誘拐事件に巻き込まれた事を知り、現地へ向かう。その誘拐事件では既に8人の女性が誘拐され2人が殺されていた。
クロスは地元警察のラスキン刑事から事件の詳細を聞かされる。
そんな中、また被害者の遺体が発見された。犯人の殺害手口は残忍で証拠は何一つ残さない。
クロスは犯人の犯罪傾向から女性を収集する異常なコレクターだと分析する。
そして遺体が木に裸で縛り付けられていること、また遺体発見と誘拐の順序が違うことから「何かルールがあり、それを破ると罰として森を歩かせているのではないか」と推理する。
引用:Wikipedia
今作は、ジェイムズ・パタースンが1997年に発表した『Kiss the Girls』を原作とし、アメリカのとある場所で起きていた連続猟奇殺人事件を捜査する心理学者の顔も持つアレックス・クロス刑事と、殺人犯の9番目の犠牲者になるはずだったが、犯人のアジトから脱出に成功したケイトをメインに定番サスペンスとして描かれた作品。
制作されたのが20年以上前ということが直接的に関係しているわけではないが、定番テーマであり言ってしまえば割と王道的に進むのもあって、本格的なサスペンスやミステリーとしては様々な部分で物足りないかもしれない。
カサノバを自称する犯人は獲物である女性を拉致監禁し、全員殺すという訳でなく邦題の”コレクター”通りに美女をコレクションするという点では犯人の精神的異常性を表面的に感じることは出来るのだが、その犯人の深い心理部分や監禁された被害女性などの心理描写などもほぼ掘り下げてはいない。
その辺りがもう少しきちんと練られた上で各登場人物、特に犯人の心理描写などを描くことが出来ていればサスペンス、スリラーのカテゴリーで、もっと魅力的な作品になっていたのではないだろうか。
こういった軽めのタッチだからこそ観易く感じる人も居るのだとは思うが、ある程度同カテゴリーを好んで観てきた人にはそこまで満足感は得られない可能性が高い。
あくまで今作は犯罪心理学のプロでもあるモーガン・フリーマン演じるアレックスと、被害女性の中で唯一犯人から逃れることに成功したアシュレイ・ジャッド演じるケイトが、今もなおコレクションされている女性たちを救出するために奮闘するサスペンス風バディムービーと言ったほうがしっくりくる。
正直言ってしまえば、いくら唯一の目撃者であるが故にその目撃証言は重要とはいえ被害者であるケイトが、そのまま捜査協力するというのは流石にサスペンス物としてはリアリティに欠ける。
そしてこれが一応カサノバの正体の伏線になっているのかもしれないが、カサノバがターゲットに接触する際に使用する手段がアレックスの尋問手法と同様というだけでほとんどの人が具体的に誰とまでは行かなくとも、ある程度想定出来てしまってその正体に対する意外性を感じる事が出来ない。(あれが伏線だというのであれば大分雑)
もう少し、現代で言えばプロファイルを駆使しながらカサノバと高度な心理戦を繰り広げながら、その要所要所に伏線ともとれるような要素を散りばめたりは出来なかったのかなと思ってしまった。
折角モーガン・フリーマンを起用しているのにも関わらず、彼の存在感や圧倒的な演技力が発揮されているとは言いにくい。
冒頭でサスペンススリラーとしてカテゴライズしてはいるが、基本的にはサスペンス風バディアクションということを頭に入れて観ると良いだろう。
気軽に観ることの出来る作品として考えればそれなりに楽しむことはできるが、個人的にはちょっと物足りなさを感じてしまう作品だった。
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『インターステラー』感想・紹介・レビュー【人、愛、宇宙】
インターステラー
2014年に公開されたアメリカ合衆国のSF映画。
監督・脚本をクリストファー・ノーラン、共同脚本をジョナサン・ノーランが務めた。
出演
- マシュー・マコノヒー
- アン・ハサウェイ
- デヴィッド・ジャーシー
- ジェシカ・チャステイン
- マイケル・ケイン
- マット・デイモン
序盤のあらすじ
近未来。
巨大砂嵐が日常的に発生する異常気象により地球規模で植物・農作物の大量枯死が発生し、人類は滅亡の危機に晒されていた。
元宇宙飛行士クーパーは、義父と15歳の息子トム、10歳の娘マーフィー(マーフ)とともにトウモロコシ農場を営んでいる。
マーフは自分の部屋の本棚から本が勝手に落ちる現象を幽霊のせいだと信じていたが、ある日クーパーはそれが何者かによる重力波を使った二進数のメッセージではないかと気が付く。
クーパーとマーフはメッセージを解読し、それが指し示している秘密施設にたどり着くが、最高機密に触れたとして身柄を拘束される。
そこでクーパーはかつての仕事仲間のブランド教授と再会し、大昔に無くなったはずのNASAが秘密裏に復活し活動を続けていることを知らされる。
NASAは土星近傍のワームホールを通り抜けて、別の銀河に人類の新天地を求めるプロジェクト――ラザロ計画を遂行していたのだった。
引用:Wikipedia
今作は、3次元における不可逆性の時間と重力場、特異点、ニュートン力学、特殊相対性理論などその他さまざまな科学的考証を用いた演出をし、地球を離れ新たな居住可能惑星の探索を行うためにワームホールを通過し、別の銀河系へとインターステラー(有人惑星間航行)をする宇宙飛行士のチームを主軸に、未知の世界への無謀ともとれる挑戦とその状況下での人間の倫理、勇気、信頼、愛などヒューマンドラマもふんだんに盛り込んだSF作品としては異色とも言える作品となっている。
「SF映画」というカテゴリーではあるものの、『スターウォーズ』シリーズを始めとする現代社会における問題の一部を切り取ってあくまでもエンターテインメント作品として作られるものと、人類や地球そのものが抱える普遍的な問題をシンプルに定義し訴えながら視聴者にそのことについて考えさせる物が存在する。
今作はその中でカテゴライズするのであれば、確実に後者と言えるだろう。
それでいて今作は”愛”というものを様々な事象や事柄を超越し得る存在として前面に押し出し、ヒューマンドラマとしてのシナリオが新鮮に感じられる人も多いのではないだろうか。
逆に言ってしまえば、至って純粋なエンターテインメントとしてのSF映画を求めて観てしまうと、圧倒的な孤独感に辛さの描写に作品を楽しむというよりも心の底から「人」が恋しくなってしまうかもしれない。
そして何と言ってもクリストファー・ノーラン作品としての映像の魅力は相変わらずだ。
可視化するのが難しいであろうモノをそれらしく映像として落とし込む才能は流石としか言えない。
それが故に宇宙、物理学などのことが詳しくなかったとしても、きちんと丁寧にアプローチをしながらストーリー展開がなされていくためある程度は問題ない。
勿論、扱っているテーマがテーマなだけに全く分からない人にとっては整合性が取れない部分や、冗長に感じてしまうシーンがあるのでその辺りは注意して欲しい。
しかしこれだけ映像から受ける刺激の多い作品も珍しい。
時、空間、様々な概念などの観点を改めて考えさせられることになると思う。
映画として成立させるためにある程度都合のいい部分は存在するが、これだけチャレンジング尚且つメッセージ性のある作品になっているので是非お勧めしたい。
そもそも、映画で再現されていることが全て正しい訳でもない(証明しようがない物もある)ので、そういったレビューで評価を落としている人は「フィクション」ということを忘れないで貰いたいところではある。
小ネタ
秘密主義者で知られるノーランは今作の撮影の際にも、厳重な警備を敷いた上で臨んだ。
撮影は『Flora’s Letter』というタイトルで行われていて、フローラとはノーランとプロデューサーのエマ・トーマスとの間の子供のうちの1人から。
今作の科学コンサルタントには相対性理論を可能な限り正確に描写するために、理論物理学者であるキップ・ソーンが起用された。
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『ハイ・クライムズ』感想・紹介・レビュー【異色の法廷ドラマ】
ハイ・クライムズ
2002年に公開されたアメリカ合衆国のサスペンススリラー映画。
監督をカール・フランクリン、脚本をユーリー、ゼルツァー、グレイス・ケイリー・ビックレイが務めた。
原題:High Crimes
出演
- アシュレイ・ジャッド
- モーガン・フリーマン
- ジェームズ・カヴィーゼル
- アダム・スコット
- アマンダ・ピート
- ブルース・デイヴィソン
- トム・バウアー
序盤のあらすじ
2002年。
女性弁護士のクレア・キュービックは、建設会社を経営する夫トムと共に幸せな日々を送っていた。
だが、そんなある日、二人の家に強盗が侵入。
二人とも無事だったが、警察が事件を捜査していく内に、トムの本名がロナルド・チャップマンであること、過去に海兵隊の特殊工作部隊に所属していたことが判明する。
しかも、彼には1988年にエル・サルバドルで一般市民9人を殺害した容疑がかけられており、結果FBIに逮捕されてしまうのだった。
自身の無罪を訴えるトムと、彼を信じて軍事法廷に立つことを決意するクレア。
そして軍事裁判に関する知識が豊富な、老弁護士チャーリー・グライムス。
チャーリーの手助けを借りながら、軍の隠された実態を暴いていくクレアだったが、事態は予想だにしない方向に向かっていく。
引用:Wikipedia
今作は、ジョセフ・ファインダーの小説『バーニング・ツリー(原題:High Crimes)』を原作とし、1997年の映画『コレクター』のモーガン・フリーマンとアシュレイ・ジャッドが再びタッグを組み、過去を捨てたはずの男が12年前のエルサルバドル住民の殺害容疑をかけられ、弁護士でその男の妻が無実を信じ軍法会議で海兵隊法務部出身の弁護士と共に戦うを描いた作品。
軍法会議をてーまにした作品として有名なのはトム・クルーズなどが出演した1992年の作品『A Few Good Men』だろう。
あちらが軍法会議ものとしては教科書的な存在になっている一方、今作はどちらかというと軍法会議を題材にはしているもののあくまで1つの要素に過ぎないと言ったところだろうか。
『A Few Good Men』の記事はこちら
前半から中盤にかけては、刑事民事の異なる軍事裁判のシステムや国家保安の上で壁となる機密や軍法などを、脚本も含め相当練りに練って丁寧に作られた軍法会議ドラマにはなっている。
中盤以降は一転、法廷中心のストーリーからサスペンス要素、スリラー要素の強いドラマになっていく。
これが評価を分ける点になってしまっているのだとは思うが、個人的には軍法会議モノとして進めたとしても『A Few Good Men』と比較するとあちらに軍配が上がってしまう気がするので、こういう展開も無くはないかなと感じた。
ラストの展開なども含めると結構後味の悪い作品になってしまうので、そういうモヤモヤを遺した状態で終わる作品が好みじゃない人には向かないかもしれない。
純粋な法廷モノとして作られていたらどうなっていたんだろうという気持ちもあるが、異色の法廷ドラマ+サスペンスとして考えれば、これはこれでアリと感じさせてくれるくらいにはきちんと作られた作品だ。
もし、今作を観て腑に落ちない点がある場合は原作小説を観ると色々分かるかもしれない。
理想は映画の中で分かるのが1番良いと言えば良いんだけね。
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『EVA<エヴァ>』感想・紹介・レビュー【創造者と創造物】
EVA<エヴァ>
2011年に公開されたスペインのSF映画。
監督をキケ・マイーリュ、脚本をセルジ・ベルベル、クリスティーナ・クレメンテ、マルティ・ロカ、アインツァ・セラが務めた。
出演
- ダニエル・ブリュール
- マルタ・エトゥラ
- アルベルト・アンマン
- クラウディア・ベガ
- アンヌ・カノヴァス
- ルイス・オマール
序盤のあらすじ
2041年、天才ロボット科学者であるアレックスは、故郷である雪深いサンタ・イレーネに10年ぶりに戻って来る。
10年前に中断したままになっていた子供型ロボットの研究開発を再開するために、同地にある大学のロボット科学者フリアに呼び戻されたからである。
しかし、故郷にはかつての恋人で今は兄ダヴィッドの妻となったラナがおり、ラナとアレックスの間には今でもわだかまりが残っていた。
アレックスは大学での仕事を嫌い、実家で研究をすることになる。
フリアはロボットのモデルとなる少年の候補を何人か映像で見せるが、アレックスはいずれの少年も気に入らない。
引用:Wikipedia
今作は、2041年という近い未来を舞台として、ロボットAI工学の専門家の主人公アレックスはロボット開発を途中で投げ出して失踪し、10年後大学に呼び戻され大学の仲間たちによってほぼ完成しようとしていたロボットの知能を姪である少女エヴァをモデルにした子供型のロボットを開発しようとした結果、知ることになってしまう過去の秘密を描いたSF作品。
ストーリー的にはそこまで秀でた物を感じる訳でも、斬新さがあるわけでもないし、ハリウッド大作のようなどこまでが現実でどこまでがCGというようなロボットが出てくるわけでもない。
今作はそういったバリバリのSF大作というわけではなく、舞台となっている豊かな自然に囲まれたスペインの学園都市を始めとする映像美と、タイトルにもなっている少女エヴァの12歳特有の愛らしさ、12歳とは思えない知的な一面を観る映画と言えるかもしれない。
あくまでも個人的にだが、エヴァは『LEON』のマチルダを彷彿とさせる。
作品の雰囲気やキャラ設定などはまるで違うのだが、年齢にそぐわない一面を見せたかと思いきや、年齢通りの無邪気さを持ち合わせている部分。
そして、目線やちょっとした仕草だけでしっかりとその場その時の感情を視聴者に訴えかけてくるような演技は両者とも素晴らしい。
『LEON』の記事はこちら
偶然にも『LEON』が映画デビューとなったナタリー・ポートマンと同じく、今作が映画デビューのクラウディア・ベガ。
ナタリー・ポートマンは上記の『LEON』の記事内でも触れているので省くが、クラウディア・ベガもとてもじゃないが、初出演の映画とは思えない存在感と演技力。
そしてこれも演出なのかは分からないが、周囲の雪景色やウールの赤いコートがレフ版のような効果を持ち、女性の顔を明るく引き立たせているのもあってより一層魅力的なキャラクターとして仕上がっている。
キャラクターの魅力は勿論だが、映像から感じ取ることの出来るクレバーな雰囲気も自分は好きだった。
寒さをこれでもかと痛感させられる銀世界、登場人物の移動手段として出てくる古い車たち、ヨーロッパ映画特有の気怠い空気感などが物凄く心地よい。
人によっては地味目、暗いと捉えられてしまうとは思うのだが、そういった部分も今作の良さだろう。
序盤はそれなりに楽しげな雰囲気を醸し出している状態で進んだかと思いきや、中盤からエンディングに向けてやや暗め、悲劇的な方向へと向かっていく展開は向き不向きあるのは確かかもしれない。
しかし、今作は創造物の在り方は創造者の主観で決められるべきなのか、というような強くも儚いメッセージがしっかりと込められていて、近い未来実際に起こるかもしれないと思わせてくれる問題の根っこをさり気なく掘り起こし提示した貴重な作品としてオススメしたい。
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